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赤ひげのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

赤ひげ(1965年製作の映画)
3.5
【社会人1年目の教科書】
凄惨な環境に配属され、地獄のような光景にげんなりするも、冬の時代を必死に駆け抜けた先に爽快な息吹が流れる。社会人になり、ある程度の辛酸と変化を経験してきた者にとって黒澤明が『赤ひげ』に刻んだラストに涙するだろう。

せっかくオランダ医学を修め、江戸幕府の医者とし活躍しようと意気込んでいた保本登だったが、不本意な小石川養生所での勤務を命じられる。小石川養生所は、膨大な患者が詰めかけ、悪臭立ち込める地獄の底のような空間であった。恋人にも捨てられ散々な状態で辿り着いたのもあり、最初こそは早々に追放されたい一心で酒を呑み、悪態をつくも、段々と所長「赤ひげ」を尊敬するようになり、自分の役割を見出していく。

若い頃は、理想と現実とのギャップに折り合いをつけることが難しく、現実から逃げ出しそうになる。しかし、現実と向き合って経験を積むことでいつしか自分の血となり肉となる。一見、頼りなく見える先輩や上長であっても、現実と向き合ってきた時間の長さだけノウハウがあり、それに触れることで自分の至らなさに気づかされ、他者を尊重し謙虚であろうとする心が育まれる。社会人1年目の教科書ともいえる本作だが、もうひとつ注目すべき点がある。

それは座敷牢に隔離されている女とのエピソードだ。何人も男を殺した彼女が登を誘惑する。その誘いを受けてしまう中で彼は殺されそうになる場面がある。この一連の流れから、彼女はどうやら男から暴力を晒されトラウマを抱いており、それ故に攻撃的になっていることがわかってくる。ケアの観点からの適切な距離感を考えさせる場面となっているのだ。
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