ぽめりん

赤ひげのぽめりんのレビュー・感想・評価

赤ひげ(1965年製作の映画)
4.1
「七人の侍」に次いで、黒澤作品を鑑賞したのは2本目。
インターミッションまで見て、残りは翌日に持ち越して見ようと思っていたのに、やはりと言うかなんというか、引き込まれてそのまま最後まで見てしまった。
重厚なヒューマンドラマなのに、必要以上に重苦しくない不思議な作風だった。

黒澤映画は、物語の設定やキャラクターの生い立ちをいちいち親切に観客に説明したりしない。バッサリしている。でも作品がこれだけ長尺になるのは、独特のタメ感とか、一見無駄なようで後々味わい深く感じられる意味のあるカットがたくさん盛り込まれているせいだと思う。こればかりは、洋邦問わず最近の映画ではなかなか見ることができない。エンタテインメント性よりもアーティスティックな側面に重きを置くことができたこの時代の特有のものだと感じる。

カメラワークも本当に秀逸だし、特にこの映画においては効果音の使い方が印象深いシーンが多く、表現技法の巧みさに舌を巻いた。

正直いって演技が下手くそな役者も数人混じっていて、特に序盤はそれを顕著に感じられて先が不安だったが、加山雄三の演技は台詞の言い方などに独特のクセがありつつも味があったし、何よりやはり出番が少ないながらも重厚感と存在感を十二分に感じさせる三船敏郎が相変わらず素晴らしい。演技に説得力がある。そして二木てるみさん演じるおとよの印象が何とも鮮烈で、話が進むにつれてどんどん人間性が花開いていく彼女にいたく引き込まれていった。

「人の死は荘厳だ」「貧困や無知が病を生むのだ」
こういった名言が光る、『死』に焦点を当てて繰り広げられるドラマ。
『人生って素晴らしい!』なんて軽薄なテーマの作品の何百倍も深く心に突き刺さって来る。

鑑賞し終わってうっかり独り言を呟いてしまった。
「やっぱり黒澤作品はすげえ」