継

近松物語の継のレビュー・感想・評価

近松物語(1954年製作の映画)
5.0
不義密通の罪を着せられた二人の, 追い詰められていく悲恋の道行き。
果たしてその道程の先に待っているのは...

『七人の侍』,『ゴジラ』と同じく, 邦画が頂点を極めていた1954年の製作。
一時期のスランプを脱し, 晩年を迎えて円熟した監督・溝口健二と大映の職人技・底力を見せつけられるかのような作品でした。

己の不貞を揉み消そうとする主人の悪だくみに利用されてしまう茂兵衛(長谷川一夫)とおさん(香川京子)の運命が, まるでシェイクスピア悲劇のように流転していきます。
本作は実際の不義密通事件に材を得ていて, その名のとおり実在した茂兵衛とおさんは引廻し処刑の果てに磔刑にされ, 5日間もその身を晒したというんですが,
近松門左衛門「大経師書」に井原西鶴「好色五人女」を合わせたという本作はその事件に沿いながらも, 茂兵衛のある一言によって劇的に転調し, 悲恋をポジティブな印象を与えるものへ昇華させていきます。
この時まだ23歳だったという香川京子が見せる様々な表情, 特に最期の晴れやかなそれは “勝利の凱旋” とも思えるものでした。。


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二人が入水心中を試みる場面で, 琵琶湖へ突き出す様に建てられた満月寺・浮御堂をチラッと映すんだけれど, ぼんやりと墨絵のように撮られたそれは, まさに湖面に立ち込める霧上に浮かんでいるようで。

マーティン・スコセッシが主宰するフィルム・ファウンデーションとKADOKAWAの協力の元で実現した4KデジタルBlu-rayを鑑賞。
マスターポジフィルムからの修復を行い, 撮影監督·宮川一夫の右腕だった宮島正弘氏とスコセッシ自らが修復の監修にあたったものです。

先行するDVDの画質が特に悪かったとは思わないし, そちらを鑑賞したのはかなり前なので正確な比較は出来ませんが, 衣装の柄の詳細や素材感, 画面奥に配された小道具やセットは明らかに精細に見て取れました。それからDVDには無かった字幕が付いているのはポイントが高かったですね。撮影や美術, 照明のみならず, 些細な台詞の一つ一つにまで神経が行き届いているのが分かりました(^^)。
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