YAEPIN

近松物語のYAEPINのレビュー・感想・評価

近松物語(1954年製作の映画)
3.8
本作では厳しい封建制の中で生まれた悲恋が描かれているが、恋愛の機微だけでなく、多様なキャラクターの人間模様も面白かった。
無駄のない美しい映像の中で、人間の細やかな感情が交差する。

大経師屋の奥方おさんと奉公人の茂兵衛は、冒頭のフラグ通り不義の密通の罪で追われる身となるが、なにも初めから通じあっていた訳ではなく、主人との小さなすれ違いから結果的に2人で逃げることとなる。
茂兵衛のおさんに対する態度は中途までしっかりと一線を引いているのに、状況証拠から不義と決めつけられて行き場を失う姿が哀れだった。

茂兵衛はずっと誠実に堅実に奉公しており、主人への裏切りなど予感もさせないキャラクターである分、おさんと秘めたる思いが通じ合うシーンが心に残った。

心中を決意した2人が乗る小舟は、不気味なほど静かな水面に浮かぶ。
余計なものが一切排除された画面は水墨画のようで美しかった。
2人の秘めた情が明かされるロマンティックなシーンだが、この場で心中するも2人で逃げるも、待つものは死のみ、という行き場のない絶望感も同時に滲んでいた。

他にも、茂兵衛を匿い切れない父親や、味方につければ心強かったろう小狡い同僚、おさんの失踪に同情するふりをして大経師屋の取り潰しを目算する者など、卑近な人間模様が描かれている。
それぞれ登場時間は短いが、その中で人の持つ多面性が浮き彫りになっていた。
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