Mikiyoshi1986

近松物語のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

近松物語(1954年製作の映画)
4.3
本日8月24日は日本が世界に誇る名匠・溝口健二監督の没後61年目に当たります。

本作は浮世草子作家・井原西鶴の「好色五人女」に収録された「中段に見る暦屋物語」と、
浄瑠璃作家・近松門左衛門の「大経師昔暦」をベースに映画化された溝口の代表作。

そもそもこの人妻おさんと奉公人・茂兵衛が織り成す通姦噺は、江戸時代に京都で実際に起きた有名な不倫事件が元になっているわけですが、
不条理の連続で窮地に立たされ、そこで突如芽生える二人の熱烈なる純愛は多くの共感を呼び、人間そのものの美しさを浮かび上がらせてくれます。

溝口は前年の1953年に「雨月物語」でヴェネチア国際映画祭において銀獅子賞を受賞しており、
一方同年に長谷川一夫が主演した「地獄門」はカンヌ国際映画祭にて見事パルムドールを受賞。
そして翌年には香川京子出演の溝口作品「山椒大夫」で再び銀獅子賞を受賞。

1950年に黒澤明「羅生門」が国際的な評価を得て以降、こうして戦後日本の映画復興を世界に印象づけていた大映は、
この世界的な名声を得た溝口・長谷川・香川をついに本作で組ませることに。

溝口の寡黙なる要望に必死で応えようとするスター俳優・長谷川一夫の意地と、
当時独身ながらも人妻のおさんを演じ切ろうと食らいついた香川京子の女優魂。
この三つ巴の攻防はある種の緊張感となって、追いやられた二人の世界をより深淵なるものにしている印象を受けます。

特に素晴らしいのは、霧立つ夜の琵琶湖でぽつんと浮かぶ小舟の二人。
宮川一夫のキャメラ技巧と大映スタッフの結集によって生み出された幽玄世界は、まるで心中間近の二人を此岸と彼岸の境目に置いているかのよう。
茂兵衛のカミングアウトも胸アツだし。

不幸に振り回され、周囲の人間の浅ましさに苛まれつつ、
不義密通は極刑に処される重罪だった封建時代に、すべてを擲ってでも愛を貫いたおさん茂兵衛。
そんな人間の真価を問うラストは、国や時代を越えて観る者の心を強く揺さぶるのです。
Mikiyoshi1986

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