初期の漫画実写化として時代性にあふれ成功している。公開の1970年は万博と公害という表と裏があり、時代のダークサイドをえぐるピカレス小説のごとき風合で、ラストには文学的な香りが漂う。
文学的な香りはラストだけではない。赤貧の育ちから金のために人を殺し、社長の娘を利用して成り上がって行く物語は、ダークな「赤と黒」で、自殺する社長の娘(妻)が「罪と罰」を読むように、全編の基調音になっている。また、社長に成り上がった後の工場の有害排水問題は時代性を補助している。
出演陣は豪華で、主人公の唐十郎だけでなく、緑魔子、横山エリ、鈴木いづみという先端者。信欣三、加藤武、岸田森、曽我廼家明蝶という曲者。不似合いな藤木悠が唯一東宝らしさを添える。状況劇場からは大久保鷹のみで、吉澤健も出ていない。
唐十郎の歌う主題歌は作詞が原作者のジョージ秋山、作曲が浜口庫之助。浜口という戦後のヒットメーカーの起用も時代を象徴する。
新宿西口ロータリーをスカジャンの唐十郎がさまよい歩き、現在工事中のモザイク通りで片眼のサングラスを拾うシークエンスから、♪銭ゲバ、銭ゲバ♪の主題歌の流れるオープニングが鮮烈。広角、鏡などの撮影技巧、漫画のフキダシを格言のように字幕にする手法なども挑戦的。ラブホテルの回転ベッドに札束をばらまき裸の女に馬乗りになるシーンは強い直喩。
戦後と昭和の日本のダークサイドを描く、後の東映テイスト満載なのに何故か配給は東宝。巻頭東宝マークより前に製作プロダクション名が大きく映されるので、この作品の2年後に始まる子連れ狼シリーズのように会社間の綱引きがあったのだろうか。