前方後円墳

H storyの前方後円墳のレビュー・感想・評価

H story(2001年製作の映画)
3.0
複雑な構図をもつ作品だ。
アラン・レネの『二十四時間の情事』をマルグリット・デュラスの原作のテクストそのままにリメイクする。その映画のメイキングとして、この映画は始まる。
ただ一見だらだらと撮影風景が流れているように見える。しかしそこからトラブルで撮影中断。それからの展開に必要な映像と時間経過なのだ。この作品を創り上げるリズムがここで作れれている。

作家の町田康がリメイクをすることに対して疑問を投げかけることから物語の方向が変わる。そしてベアトリス・ダルは自由に肉声を発することができないテクストに対して、演技ができなくなり、撮影そのものがストップしてしまう。
ダルの演技は血を流すような演技をする。だからこそ自らの血の通っていない言葉を発することは、彼女にとって演技ではないのだ。

ここからの描写がとても面白い。監督はこの映像を撮りたかったのだと思われる。もともとテクスト通りにリメイクする気などないのだ。
どうしようもない気持ちを抱えたまま、ベアトリスと町田は原爆の美術館に行く。ベアトリスはまったく関心がなく、先に美術館から出て行っていまうのだが、このあたりもベアトリスと町田の距離感とベアトリスとリメイク映画に対する距離感を感じることができる。

大した台詞もなく、時折、発せられた言葉はフランス語と英語。そこに言葉での意思疎通はない。町田とベアトリスの表情を追っていくカメラの中に、孤独でも、信頼でも、同情でもなんでもない。小さな休憩場所として、二人の時間がそこに写し撮られていく。ぽっかりと空いた穴のような空気がその映像にはあり、それは喪失感とかいうものではなく、初めから存在しなかった部分がそこにあるかのようで、その穴を二人で静かに見ている景色があるのだ。