Kuuta

驟雨のKuutaのレビュー・感想・評価

驟雨(1956年製作の映画)
4.4
面白かったー!

倦怠期の夫(佐野周二)と妻(原節子)のディスコミュニケーションが、断絶したショットとアクションで示される。

妻が何か主張している間、話を聞いているはずの夫は画面に映らない。返事をする夫にカットが切り替わると、彼は直前までいた場所とは別の位置に移動し、別の行動を始めている(座っていたのがいつの間にか立っている、タバコを吸い始めている等)。再び妻へ切り返されると、妻もさっきまでと違う行動を取っている。

普通の映画は、人が新たな動作に入る瞬間をカメラに収めて「一連の流れ」を描く。が、成瀬は全てをぶつ切りにして、お互いが話をロクに聞かず、自分の事を優先する様子を表現している。途切れ途切れの編集と、ワンカットごとに「自己完結」したアクションが、2人の一方通行な会話を鮮やかに描いている。

夫婦に対して、姪(香川京子)が自分の夫の愚痴を言う冒頭も同様だ。原節子は香川京子の正面に座ってうんうんと聞いているが、佐野周二はカットが変わる毎に体を動かしたり、タバコを吸ったり。どんどん体の向きが変わっていくのがコミカルですらある。表面的な会話は続いているものの、姪の話を聞いていない様子は文字通り「姿勢」に現れている。

90分間、全編通してこんなテンションで、目線と体の向きによるコミュニケーションの描き方が極まっている。

香川京子の愚痴を原節子が一対一で聞く場面では、香川京子は原節子に背を向けており、香川京子は一見すると「どうせ分かってくれない」といじけている雰囲気。だが、両者は顔を同じ方向(カメラ)に向けており、関係が途切れていないのが分かる。

佐野周二が別居を切り出す場面。ここは夫が妻に物申したいシーンなのだが、なかなか原節子は目線を返さず、むしろ夫へ厳しい批判を加える。妻に背を向けていた夫は、あんまりな物言いに思わず振り返り、目線を送る。
しかし、カットバックされた妻は一切カメラを見ないまま水汲みを続ける。

町内会でみんなが色んな主張をして、カットバックが連発されるが全くまとまらない場面も最高だった。本筋とはあまり関係ないシーンだが、撮り方が確立されてるから、多人数の会話を繋ぐだけで面白い。

いがみ合いつつも、支え合わずにいられない主人公夫婦。今後を話し合うべくデパートでランチする場面。ギスギスしながら何を食べるか尋ねる際、「お汁粉?」「あんみつ?」と話す両者の目線が一瞬重なるのがドキッとする。

夫婦が「同じフレーム内で、同じ方向を見る」ショットは何度かある。ただ、常に2人は前後の位置関係がズレており、横並びでは噛み合わない。

そのズレを修復するきっかけは、ラスト直前で姪から届いた写真。あれだけ愚痴を言っていた姪だが、主人公2人の様子を見て、夫婦仲とは何かを学んだのだろう。写真の姪夫婦は「同じフレーム内で、同じ方向を見て、並んで」写っている。

この写真に何かを感じた様子の主人公夫婦。後はオチだけ。そこで2人を繋ぐ小道具の登場はあまりに強引。呆気ないラストにも笑ってしまった。

撮影も演技も素晴らしかったが、音楽の使い方だけはよく分からなかった。単純にピアノ入れ過ぎでは?88点。
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