あんがすざろっく

七人の侍のあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

七人の侍(1954年製作の映画)
5.0
高校生の時に、同級生でむちゃくちゃダンスの上手いA君がいたんですよ。MCハマーが流行っていた頃で、A君もヒップホップが大好き、ランニングマンとか、すごい上手かった。
その彼、何故なんだか黒澤映画も大好き。
決して映画自体に詳しいわけでも、特段映画を見るのが好きな人でもなかったんです。
だけど、黒澤映画が大好き。どうやらご両親の影響らしいです。

ヒップホップとクロサワ。
彼の口から語られる、全く繋がることのない両極が不思議で仕方なくて、だけど新鮮でした。

当時僕は黒澤映画は1本も見たことがなくて、勿論「七人の侍」はタイトルこそ知っているものの、これっぽっちも興味を持ったことがありませんでした(ごめんなさい…)


丁度その頃、「七人の侍」がリバイバル公開されました。
A君の強い勧めもあり、僕は劇場に向かいました。


毎年稲の収穫時期になると、野武士に襲われ続けてきた農村。農作物を全て野武士に奪われてしまう。村の男達は百姓育ちで、とても野武士に立ち向かえない。そこで村の長老が考えたのが、侍を雇って村を守ってもらうこと。報酬は、寝る為の宿と、腹いっぱいの握り飯。
果たして侍探しが始まり、剃髪の坊さん姿の勘兵衛を筆頭に、七人(正確には侍見習いが一人と、侍崩れが一人)の侍が集まる。

作品は、前半に侍探し、後半は村での野武士との戦いが描かれます。
正味三時間半。これだけの長尺で、とにかく飽きることなく、映画の世界を堪能できます。
まず個性溢れる七人の侍達。どのキャラクターもおざなりには描かれていません。

まるで野生の獣のような菊千代役の三船敏郎氏はこの作品で世に出ていく訳ですが、僕の中では、剣豪久蔵役の宮口精二氏が飛び抜けて魅力的でした。己を鍛え上げることに凝り固まった、ストイックで無口な侍は、男が見ても惚れ惚れしてしまいます。

村人達の願いを最初に汲み取るのが、勘兵衛役の志村喬氏。腕はあるのに、出世欲がない為に然るべき城主に奉公できなかった、不
遇の身です。
まだまだ子供の勝四郎を演じた木村功氏。剣の腕は「中の下」だが、周りを明るくする人柄が苦しい時に重宝する平八役の千秋実氏。その平八を見つけるのは、勘兵衛の人柄に惹かれて参戦する五郎兵衛役の稲葉義男氏。勘兵衛に「古女房」と言われ、長い付き合いから言葉がなくとも勘兵衛の気持ちを呑み込む七郎次を演じた加東大介氏。まずキャストが素晴らしいんです。

作品的にも、侍が集まるまでの過程、また野武士との戦いに至っては、その戦い方や作戦、仕留め方まで細かく描かれており、脚本の濃密さに驚かされます。

黒澤監督はこの作品で初めて望遠レンズを使った撮影に挑んでおり、長い刀を担いだ菊千代が振り向くシーンは、本当に刀が飛び出てくるのでは、と焦る程の効果を見せます。言い方を変えれば、3Dの先駆けとも言えます。

この後映画界では、舞台を替えたリメイクがたくさん生まれましたが(有名なのが荒野の七人で、黒澤監督はリメイクを認めていません)、それだけ物語性がしっかりしていたんです。今でもリメイクの企画は何度も立ち消えし、業界のみならず、一般の映画ファンの間でも、リメイクしたら配役は…なんて話が全く尽きません。
一時とんでもないキャストで企画があがってましたが、イーストウッドにシュワルツェネッガー、トム・クルーズにブルース・ウィリスって、さすがに夢のキャストとは言え、こりゃ絶対ムリだろ⁉︎と突っ込みたくなる顔ぶれ(笑)。

まだ未見ですが、デンゼル・ワシントンやイーサン・ホークら豪華キャストで蘇った「マグニフィセント・セブン」は久しぶりに登場したリメイクでしょう。

これから後、もしかしたら再びリメイクの話も持ち上がるのかも知れませんが、皆さんが頭の中で夢のキャストを膨らませることができる、いつまでも夢を見続けさせてくれる作品だとも思います。
あんがすざろっく

あんがすざろっく