マヒロ

白いリボンのマヒロのレビュー・感想・評価

白いリボン(2009年製作の映画)
4.0
ドイツのとある村で、馬に乗って帰宅中の村医師が足元に張られたワイヤーのせいで落馬し大怪我を負うという事件が起きる。それをきっかけに奇妙な事件が頻発し、村人は疑心暗鬼になっていく……というお話。

ハネケ監督らしい、人間の悪意や猜疑心に裸で晒されるような恐ろしさが全編に漂うイヤ〜な作品。
「白いリボン」というのは、村の牧師が言いつけを守らない自分の子供たちに結びつけるリボンのことで、言うことを聞いて純粋な子になるまで外せないという戒めのようなもの。この映画は子供がたくさん出てくるんだけど、みんな親から厳しく躾けられているという共通点があり、どの子も抑圧されているからなのか皆無表情の仏頂面で何を考えているか分からない恐ろしげな存在として描かれているのが一種特徴的。
「父と子」という関係だけでなく、村を治める男爵と村人、家長と雇われの家政婦、宗教の主たる牧師と信者など、支配する者とされる者という構図が多く出てきて、その抑圧の結果生まれる関係性のひずみが悲惨な事件の数々の原因になっているのではないかということを感じさせられる。

最後にサラッと触れられる程度だが今作の時代設定は第一次世界大戦の直前であるようで、舞台となる小さな村がまさしく世界の縮図となっていて、あらゆる思惑や悪意が渦巻き徐々に村を蝕んでいく様は、そのまま戦争に向かって突き進んでいく当時の世界の姿に重ねることが出来るのではないかなと思った。
この映画の語り部(ナレーション)となる「先生」は村の外部から来た人で、村の悪意のうねりに飲み込まれないで俯瞰して物を見る数少ない人として出てくるんだけど、彼が婚約者を池に遊びに連れて行こうとすると普段の控えめな彼女からすると妙なほど激しく拒絶されその理由は全く語られないところなど、どこか部外者として深いところまで関わることのできない断絶みたいなものを感じてここもまた寂しい余韻を残すシーンだった。

(2020.11)
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