櫻

今日もまたかくてありなんの櫻のレビュー・感想・評価

今日もまたかくてありなん(1959年製作の映画)
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いい人だ、と言ったあなたが見ていたのが、わたしの上澄のきれいな蜜だったとしても。

過去を思い返して、あの時のあの判断は正しかったと胸を張れることなんて、きっと指折り数えてもまだ指が残るくらいに少ない気がする。時代によって揺らいでいく大義名分やまわりに流れる理不尽な空気とか、そういう曖昧なものに巻かれながら生きていくのを、今までもこれからも免れないであろうから。あとで静かな部屋で考えてみたらわかったかもしれない大小様々なそれらは、環境や時代が変わっても積み重なって沈殿していく。それでも濁っても濁っても、まだ微かに残った無色透明な部分があった。支えとなっていた幼い命があった。人の世はいつもかなしい影を落としているけれど、一寸でも互いがほのかな光で照らしあって、その足元を見失わんとしていた。

誰にも聞かせなかった自分の脈拍と似た風鈴の、凛とした音はあなたのようだった。
櫻