猫脳髄

早春の猫脳髄のレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
4.0
池辺良と淡島千景の若夫婦は息子の死後、なかなか冷ややかな関係にある。よせばいいのに池辺は通勤仲間の岸惠子にアプローチされ、ついコロッと不倫してしまい、怒った淡島が家出してしまう。そこで池辺に転勤話が出て…という家族ドラマ。シナリオが単純な小津作品のなかでもかなりシンプルな部類。かつ、不倫というのっぴきならないテーマを取り上げたのも珍しい。

昭和30年代のサラリーマンを取り巻く生活環境や人間関係という風俗に迫っているのが興味深い。「通勤仲間」と満員電車をともにし、未舗装の蒲田から近代的なビルが並ぶ丸の内に出勤する。仲間たちとは休日にピクニックに出かけたり夜は麻雀卓を囲んだりと、男女問わず仲が良い。しかも、この当時のサラリーマンは数年前まで兵士であり、戦場の記憶も生なましく、この時代のリアリティを感じられる。

小津レギュラーが脇を固めるなか、高橋貞二が強い印象を残す(本作を含めて小津3作品に出演)。二枚目半から三枚目役として、独特の節回し(~ダナ、~ダナ、~ダナ)の語り口がかわいらしい(8/37/54)。
猫脳髄

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