幕のリア

早春の幕のリアのレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
4.6
〜新文芸坐「モノクロ映画の美学」特集〜

ダークサイドオブ小津安。
と、までは言わないにしても、初見の本作は意外な発見に満ちた至福のスクリーン鑑賞で御座いました。

若い時分にはさっぱり入って来なかった小津安節。
様々な作品を経てこそのゾワゾワする脚本はコメディ要素弱めでエエ話ほぼ無し。
それでも画面から漂う気品が、下卑た作品に汚れた眼球を洗浄してくれるようで有難い。

公開当時劇場に駆けつけた男女はさぞかし、気不味さに包まれたであろうが、美しいエンディングに妙に得心させられたに違いない。

〜〜

未舗装の道をぞろぞろと駅へと急ぐ早朝の蒲田リーマン。
木造の駅舎にホームから溢れんばかりの通勤ラッシュ。
謎の男女通勤仲間。
丸の内ビルを中心としたイケてる筈なのに侘しさしか無いお勤めライフ。

シャツに付いた口紅。
酔っ払って夜中に仲間を家にあげる旦那。
後に様々なドラマや漫画で散見するベタな昭和表現は本作が最初だったろうと思うと感慨深い。
どこかで聞いたことのある台詞も本作が元祖なのだろう。
凄い!

通夜など深刻な場面で小さく流れる軽妙な音楽のミスマッチ。
シリアスを嘲るシニカルとも違う演出が滑稽。

朝にご近所から僅かに聞こえる、日蓮宗の題目を唱える際に鳴らす拍子木の軽快な音。
だと思うのだが、なんぞ狙いがあるのかは謎。

黒のノースリブラウスを着た岸恵子と神田辺りのお好み焼き屋のお座敷個室でしっぽり。
甘い甘いテンプテーションに理性を保つのは無理だっつうの。
なんでも小津安作品初のキスシーンとのこと。

横暴な夫達の時代錯誤ぶりには苦笑。

送別会の🎵蛍の光🎵には主人公でなくても閉口。

なんとも不思議な映画で御座いました。

2018劇場鑑賞32本目
幕のリア

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