菩薩

早春の菩薩のレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
4.2
60余年経てどサラリーマンを取り巻く環境は未だ変わらず、そして男と女の関係性もなんら変わりはない。いっせーので朝家を出て、揉みくちゃにされながら職場につき、1日の業務を終えては仲間と憂いを語り合う。妻は単調な毎日を続け、家で大人しく夫の帰りを待つ一方、夫は妻に嘘をつき他に女を作る、ただそんな女とて、男にとっては一瞬の気の迷いでしかない。一生を会社に捧げ安定を得る人生と、手に職があるからと組織には属せずその代わり不安定の渦に身を晒し続ける人生とではどちらが幸せか、もちろんそんな幸せの形など人それぞれで良いのだが。それにしたって男ってのはどうしてあんなに哀れで醜くそして情けないのか。愚痴愚痴と不平不満を漏らしつつ、負け戦であるにも関わらず過去の栄光に縋り、夜遅くに友を連れ帰っては妻を困らせ、飯の用意が遅ければ機嫌を損ね、妻の妊娠が分かればあたふたあたふた現実を受け止められず、徒党を組んではみ出し者を吊るし上げては悦に入り、なにより妻が居なくなれば家事の一つもままならない。と、もうその辺りは時代を経て今刻々と変わりつつあるだろうが、小津のこのいつもながらの戦後の家父長制度の揺らぎに対する辛辣な目線には痺れる。「いざとなると、会社なんて冷たいもんだし、やっぱり女房が一番アテになるんじやないかい?」、再び互いを一番のアテにし、冷た過ぎる夫婦の冬を乗り越え新たなる春を迎える決意をする二人、去りゆく電車を見送る二人の視線…おっと…?「寝ても覚めても」二人はやっぱり夫婦なのだなぁ。
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