きざにいちゃん

早春のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
3.6
小津作品というのは、何とはない市井の人々の暮らしの中に、埋もれるように咲く小さな雑草の花のような幸せを描くのがいい、という自分勝手な価値尺度があるので、この作品はあまり好きではない。生々しい不倫やラブシーン(と言っても現代から見れば極めておとなしいが…)は、リアリティはあるが、おとなしく、ありふれているし、他の誰かでも撮れそうに思えてしまう。
小津の意図なのか、製作会社側からの指示なのか、ラストの着地点も納得がゆくものではないし、『お茶漬けの味』にしても『めし』にしても同じようなラストへの展開は、当時の文化や価値観に作り手が迎合してしまっているような印象がある。あるいは、至極当然とされていた徳、価値観であったということか…
仁丹体温計や月桂冠のネオン広告、当時の満員電車」丸の内のオフィス街、グループハイク、都会でも行われていた田舎の青年会のような合掌等々、当時の東京の習俗は活き活きと描かれていて史料として興味深い。
池部良と岸恵子の為に無理して作ってしまった作品という感は否めない。