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詩人の血のatsukiのレビュー・感想・評価

詩人の血(1930年製作の映画)
5.0
生きた人間を使ったアニメーション映画は「フェニクソロジー(不死鳥術)」というジャン・コクトーの詩人の定義を下し、永遠の生を手にする作品となる。

芸術愛好家で名門貴族の子爵夫妻から100万フラン(約1億円)もの資金を援助され、製作に至る。故に、才能ある芸術家が好きなものを好きなように映画を撮れてしまった事で、恐ろしいほどまでの熱量を放つ世界が生まれた。

今作は第1話「傷を負った手、もしくは詩人の傷跡」、第2話「壁に耳はあるのか?」、第3話「雪合戦」、第4話「聖体の冒瀆」の4部から構成されるが、円環構造として使用される崩れ落ちる工場の煙突の映像から取るに、やはりこれは芸術家の苦悩、そして死という行為に至った後、直ぐの、その一瞬の出来事だと思わざるを得ない。

また手に感染る口や肩の傷跡、扉に鏡と、言わば現実と虚構の「入り口」としてのイメージの洪水に、まさしく溺れる主人公。そして「覗き穴」や死の女神、天使という象徴は蠱惑的なシュールレアリスム映画の源流ではないのだろうか?

家具を始め、雪玉やトランプという何気ない物が人ひとりの生死を裁く道具に変わり得るとはヨダレもの。その危うすぎる道具によって、委ねられた運命はその先で、肉体的な死と共に、詩という精神的な永遠の生を手に入れるのだ。
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