tetsu

明日を夢見てのtetsuのレビュー・感想・評価

明日を夢見て(1995年製作の映画)
3.9
監督の作品が気になったので、過去作の一気見鑑賞を敢行。


[あらすじ]

シチリアの田舎町にやってきた映画監督のジョー。
町の人々に向けて、有料オーディションを敢行する彼だったが、そこには、とある秘密があり……。


[感想]

『ニュー・シネマ・パラダイス』と同様に「人生は映画」というテーマを持ちつつも、「映画は虚構」であることを自覚させる切ない一作。

しかし、一方では、嘘や虚構が人を救う可能性も描かれているのが、複雑な作品でもあった。


[町に生きる人々の物語]

『風と共に去りぬ』のクライマックスの台詞を用いて、主人公が敢行する俳優オーディション。

しかし、台詞を覚えられない人々が増加したことから、その形式は、参加者自身の人生経験を語るものに変わっていく。

町の人々が語るエピソードには、一人一人の人生にドラマがあることが分かる。

そんな、ドキュメンタリーにも近いような序盤は、同じく町の人々が主役ともいえる『ニュー・シネマ・パラダイス』にも被るが、「人と町と記憶」を大切にする監督の作家性が色濃く表れていた展開だと思った。


[夢と現実]

物語の風向きは、スターを目指す若き女性の登場によって、少しずつ変わっていく。

夢を諦めた男と夢を信じる女。

この対比が絶妙で、思いもよらない悲劇的なクライマックスには、胸が締め付けられるものがあった。

また、若干、かったるい序盤の展開を、見事に収集するラストシーンでは、郷愁に浸る男の姿も相まって、『ニューシネマパラダイス』に通ずるノスタルジックな後味が残った。


[終わりに]

「同じ様な作品は撮らない」とドキュメンタリー映画で語っていたトルナトーレ監督作品というだけあって、ひたすら町の人々のオーディションシーンが続く序盤など、かなり、実験的な手法が目立っていた本作。

「映画監督」、「町の人々」、「元気な少年」など、その題材には、どうしても『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出さずにはいられないが、より現実の厳しさを強調したラストには、全く違う印象を受ける力作だった。
tetsu

tetsu