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桐島、部活やめるってよの映画バカのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
4.1
数年前に話題になっていた映画で、タイトルは知っていた。
正直、この手の青春ものの邦画は、虫酸が走るほど嫌で、本作も食わず嫌いしていた。
だが先日、たまたまBSで放送されると知り、良い機会だからと見てみた。
結論からいうと、その食わず嫌いは大きな間違いだった。

尺のわりにキャラクターが多い作目なのだが、その中で主人公的な立ち位置の人物が二人いる。
映画部の前田と、帰宅部のヒロキだ。

まず、前田のキャラクター造形に驚いてしまった。
ゾンビ映画が大好きで、学校で友達と「映画秘宝」で盛り上がり、週末には一人で映画館に「鉄男」を見に行くような男の子なのだ。
この時点で、映画好きの方なら、彼を他人とは思えなくなるのではないだろうか。

片やヒロキはというと、勉強もスポーツも出来て、彼女もいるという、まったく共感出来ないキャラクターなのである。

そんな水と油のような二人が、どうして交わってしまうのか。
事の発端は、バレー部のエースでクラスの人気者である桐島が、いきなり部活を辞めて、不登校になってしまったことだ。

ヒロキはなんでも出来てしまう。
それ故、何事にも本気になれない。
目的を見出せないのだ。
だからこそ、クラスの人気者である桐島に依存してしまっている。
その桐島の突然の退部に、誰もが同様するのだが、その中でも人一倍同様しているのは、ヒロキなのである。

そんな学校の一大事である桐島の退部に、全く影響を受けない子たちもいた。
映画部の子たちに野球のキャプテン、吹奏楽部の部長だ。

前田は自分の撮りたいゾンビ映画を、顧問の教師に否定されてしまう。
教師曰く、ゾンビにリアリティはないそうだ。
そんな教師に、前田は「ロメロの映画を見たことがあるか」と問いかける。
教師は、マイナーだと答えをはぐらかす。
このやり取りでわかる通り、この顧問は映画について実は全然わかっていないのである。

そんな顧問を無視して、彼は自分たちの作りたいゾンビ映画を撮影していく。

そんな前田たち映画部の前に立ちはだかるのが、吹奏楽部の部長である。
この女、自分の好きな男に振り向いてもらいたいがために、わざと学校の屋上で練習している、とんでもない不純な輩なのだ!
その女に、丁寧に撮影交渉をする前田。
だがその女は映画部の撮影を認めず、「ゾンビなんて遊び」とぬかしやがるのである!
「テメー表出ろ!ぶっ殺してやる!」と思ったのは、私だけではないはずだ。
その後、この女には失恋というバチが当たるのだが、彼女はその辛さを自らの演奏に昇華させる。

また前田たち映画部も、桐島を失って同様するリア充共に、撮影をメチャクチャにされてしまう。
そして彼らは反撃する。
ここのシーンのカタルシスは、半端じゃない。
リア充なんて、ゾンビの餌になってしまえ!
童貞の映画オタクの純情を弄ぶようなビッチなど、ゾンビに食われてしまえば良いのである。(どうでも良いが、かすみのあの髪型はズルい!あの髪型のせいで醸し出される清楚な感じに、オタクや童貞は弱いんだよ!)

前田も吹奏楽部の部長同様、自らの失恋を芸術にぶつける。
これは、「作品」が誕生する瞬間を、観客に見せているのだ。
こんなに高度なことを、さらっとやってくるなんて、凄いとしか言いようがない。

屋上でのドタバタが終わり、映画部を残して皆去ってしまう。
そんな中、ヒロキは8mmカメラの部品を持って、前田に近づいて行く。
そして、カメラを触らせてもらったヒロキは、前田にインタビューを行う。
なぜ映画を撮るのか?目的は?
ここでヒロキは愕然としてしまう。
何でも持っている自分が唯一持っていなかったもの、それを前田は持っていたからである。
実はそれは、あの野球部のキャプテンが持っていたものでもあった。
ここで彼は、何でも出来る自分が、内心バカにしていた前田や野球部のキャプテン以下の存在であるということを、自覚してしまうのだ。
今度は自分がカメラを向けられたヒロキ。
そのヒロキに前田にかける「かっこいい」という一言の、なんと残酷なことか。

最後、ヒロキが前田や野球部のキャプテンが持っていたものを手に入れられるかどうか。
それは、観客の想像に委ねられる。

「戦おう。俺たちはこの世界で、生きていかなければならないのだから。」