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桐島、部活やめるってよのKAJI77のレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
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過去鑑賞です!
以下,『梶岡、部活やめるってよ』(悲哀の散文)

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階上から微かに響く管楽器の和音。モノクロに黒く熟れた上履き。カラカラと爽やかな声で歌う制汗スプレー。ダムダムと踊るバスケットボール。壁に染み込んだ居丈高な教育者達の叱責の残響。渡り廊下で交差する噂の男女。窓にベッタリと張り付いた空の青と、再生紙の畏まった白。どこにだってあるような、そんな普通の高校生活だった。

1年の秋に僕は部活をやめた。今思い返すと、中学からずっと、自分なんかにはまるで不似合いな運動部にいた事が信じられない。
4年間も続けたことだったけど、やめる時は本当に一刹那。「やめます」と強ばった口元が動いて、顧問がそれを一瞥して、機械的に頷いて、たったそれだけ。なんでやめたのかなんてことは、記憶に残るほどのものでは無かった。もしかすると、ただその時疲れていたとか、そんな些細な事だったかもしれない。

それから1年ばかりが経ったある日、LINEの通知がスクリーンにぴょこっと顔を出した。それは、もう二度と関わることはないと観念していた部活の先輩から。無気力にも途中放棄した僕が言うのもなんだが、「高3になっても総体まではやる」と腹を括った先輩方の表情は実に逞しくて、本当に尊敬していた。土臭い汗すらもスパンコールみたいに煌めいて見えたり、見えなかったり。

「何言われるんだろ…」
もしかして連れ戻しに来てくれたのか…?
いや、今更それはないだろう。
じゃあ、大会で良い結果でも残して、好意で伝えたいとか…?
いや、そんなことってあるのか…?
言い知れぬ不安と期待が、胸の奥で軋むシーソーに跨って無邪気に跳ね交わす。

そして、顧問に退部を申告した時よりも緊張し、首筋に汗を這わせながら恐る恐る既読をつけた……。


「部室に置きっぱのラケット梶岡のよな?貰っとくで」


……こうして、僕の青春は鮮やかに首を掻っ切られ、夕空に透明な血飛沫をあげた。

その日、僕だけが目撃した、晩秋の蜃気楼だった。
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