垂直落下式サミング

少年は残酷な弓を射るの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

少年は残酷な弓を射る(2011年製作の映画)
3.5
ティルダ・スウィントン様は、お芝居で奥さんの役をやっていると、綺麗すぎて旦那さんと不釣り合いなカップルにみえてしまう。ジョン・C・ライリーじゃあムリだろ、この人は…。
もともと身持ちの悪そうな冒険家タイプだったティルダ・スウィントンが、望まない妊娠を契機として家庭に入り育児に専念するなど、配役からキャラクターまで、ぜんぶがミスマッチすぎて似合わない。
息子のエズラ・ミラーは、なに考えてんのかわかんない美少年を演じていて、色白で細い体にぴちぴちTシャツな着こなしが一昔前のゲイみたいで、これもちょっと気色悪い。
そんで、お父さんは人のいい普通のオヤジで、素朴かわいい妹ちゃん。ごく普通の中流家庭のなかで、ふたつの異物が接近したり離れたりしてニューロティック的な不協和を演出している。
母親の産後鬱や育児ノイローゼが子供に与えるネガティブな影響をテーマとしていると思われるが、みてみると母親は超めっちゃくちゃ頑張ってるのに、父親はやたら出番が少なくて、特に息子が赤ちゃんのころは、ぜんぜん出てこないからちょっとひどい。
父親の不在と、その責任の透明化は、フェミニズムの観点から叩かれそうな描写ではある。父親は外で稼いでんだから、母親は子供に無償の愛を注いで頑張るのが当たり前という男権主義。この前提。そんで、子供がなにか問題を起こしたら、その件で周囲から責められて苦しむのも女親の役割。そういう現実社会にある不条理をよく反映した物語だったと思う。
映画は、反社会性パーソナリティの子供が、愛を欲するゆえにとんでもない事態を引き起こしてしまうクライマックスとなる。だが、この惨劇に具体的なゴア描写はない。うーん…。実話の『エレファント』よりもソフトなのは如何なものか…。環境が生んだマザコンサイコくん大暴れを期待していたが、お上品な文芸作品ではある。