ちろる

少年は残酷な弓を射るのちろるのレビュー・感想・評価

少年は残酷な弓を射る(2011年製作の映画)
4.1
始終、どうしようもない息苦しさを感じる鬱屈とした作品なのに、登場人物の構図、効果的に散りばめられた「赤」といい、挿入される音楽といい、観ている苦しさに勝るほどにセンスが良い映像に目が離せなかった。

もし、自分から産まれた愛しい我が子が想像とは違う子どもになったら?
これは母親にとってのホラーだと思う。
幼児期からじわじわと、ティルダ スウィントン演じる母親エヴァを苦しめていくエズラ ミラーの氷のような冷たい目線がもう、美しくて怖くて忘れられない。

「サイコパス」は育った環境で作り上げられるとされているがそもそも息子ケヴィンは本当にサイコパスだったのだろうか?
冒険家としてのキャリア半ばにして後ろ髪引かれるように出産したという多少の精神的負い目はあったとしても、エヴァの母親として子育ては何も問題がないように見えるし、父親フランクリンも理想的な人物だ。
一見、理想的な形で愛を降り注いだとしても思ったように子どもが無邪気な反応を示してくれるとは限らないし、無条件で息子が母親に懐くはずだというのももしかしたら母親の思い上がった幻想なのだろう。だとしても、この家族へ神様の仕打ちあんまりだ。言葉は乱暴だけどケヴィンの脳に何らか障害があったと思わないと心が救われない。
だってあまりに複雑に、歪んだ形で愛する母親に愛情表現し続けてきたケヴィンの想いは思ったような形で実ることはなく、母息子の想いがすれ違い続けた事への代償の凄まじさは半端ないから。

残酷な主人公の現実と、微かにずれていった親子の触れ合いを交互に見せて
核心にはなかなか辿りつかないモヤモヤ感の中、薄皮をはがすように抉り出し見せる緊張感に息が詰まらせたままだったのに多分ずっと心にへばりついてしまう、そんな作品。
ちろる

ちろる