ミミミ

少年は残酷な弓を射るのミミミのネタバレレビュー・内容・結末

少年は残酷な弓を射る(2011年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

エズラ・ミラーを見る月間①

かなり好みの映画。しかし「僕のエリ 200歳の少女」レベルのネタバレ邦題なのでは。
気難しい息子に悩む母親(エヴァ)と、母親への執着と愛情をコントロール出来ず憎む方向へ捻くれてしまった息子(ケヴィン)、追い詰められた息子の偏愛が学校での無差別殺人に繋がっていくという感じ。
結婚〜ケヴィンが産まれて事件が起きるまでと現在、ざっくり2つの時系列がバラバラに描かれていて、物語の大きな形がはっきりと見えるまでもどかしいのが良かった。エヴァの髪型ややつれ方で見ていてきちんと時系が変わったことがわかるのが親切。
完全にエヴァの時点で描かれているから、まるでケヴィンが悪魔の子のように見えるけど実際はそうでもないんじゃないのかなあ。ケヴィンが本当に悪魔のようになってしまったのは妹のセリアが産まれてからだと思う。それまでの過剰ないたずらや癇癪、トイレを覚えるのが遅かったり、好き嫌いetc…エヴァへ与えるストレスは、いわゆる育てにくい子供の範疇なのでは…?と疑うこともできる。
ケヴィンが本当にエヴァへの嫌がらせのためにトイレを覚えなかったのかも、エヴァからの示唆しかないし、もっと言えばセリアの目の怪我もエヴァ視点でしか描かれておらずケヴィンがやったという明確な証拠は提示されていない。物語の中でケヴィンが確実に悪意を持って起こした事件は最後の弓矢による無差別殺人しかない。無差別殺人を起こす程の攻撃性をもっていたわけだから、今までのエヴァの推測も全部真実とみるのが妥当だけれども、それが全てエヴァのノイローゼ等の精神疾患から来る思い込みだったら?その思い込みこそが母からの愛を欲するケヴィンを追い詰めて事件に繋がったのだとしたら…と考えると恐ろしい。まあエヴァにオナニー見せつけたり、レストラン前にご飯食べちゃったり、パンを丸めて汚くしたりしてたし、異常性の布石は置いてあるし、セリアの義眼の話の時にライチ貪ってたのもケヴィンが原因って事の暗喩だとは思う。
熱を出してロビンフッドの読み聞かせをねだったケヴィン、ケヴィンから甘えられてエヴァは喜びを感じていたけれども、次の日のいつも通りそっけないケヴィンの対応にエヴァはすぐ諦めの表情を浮かべてた。そこに母子の信頼関係みたいなものが全然なくて悲しかった。整然とした部屋、たまに出る毒舌、エヴァとケヴィンの共通点はいくつか描かれるけれどもエヴァはそれに全く気をとめない。結婚前の自由なエヴァの性分は、ケヴィンに受け継がれているように思う。
家族で住んでいた家のケヴィンの部屋を再現して新たに設え、ケヴィンに会いに行くエヴァ。時系列が交錯していたのはエヴァがケヴィンとの日々を思い返し、出所したケヴィンを受け入れる心を整えていく様子を描いていのだと思った。
最後の面会でエヴァに事件を起こした理由を問われた時、取り繕わずに「分かったつもりだった。でも今は違う。」とおそらく本心を言えたケヴィン。事件を起こしてからケヴィンのことを考え続けるエヴァの姿は、ケヴィンの望んだ自分だけを愛してくれる母の姿では決してなかったということに気がついたのかな。エヴァはケヴィンにハグをして、ケヴィンもそれを受け入れたのはお互いに赦しあえたということなのか。
エヴァが見ていたドキュメンタリー番組で、ケヴィンが言い放った「僕が優等生だったらチャンネルを変えてるだろ?」これがもう全ての原因なんだなと。母の愛を歪んだ方法でしか乞えなかったケヴィンが狂おしいほど切ない。でもその方法で振り向かせた母の姿は自分の望んだものではなかった。
離婚の話を聞いてしまった時の、エヴァともう暮らせなくなると知った時のケヴィンの泣きそうな表情、エズラ・ミラーが恐ろしく美しくて妖艶なのでそれがまたケヴィンの孤独に拍車をかけて見えて悲しかった。
BGMに歌モノが多かったのも印象的だった。悲しい切ないシーンほど明るい歌だったような気が。家の壁や車、子供用シリアルなどポップな原色も意識的に散りばめられていた気がする。
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