いかえもん

わたしを離さないでのいかえもんのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
3.8
イシグロさんがノーベル賞を受賞されたときに、日本版のドラマを見て、原作も読んで、どうにも重たい話なのに、やっぱり映画も観てしまいたくなる不思議な魅力のあるお話だと思う。

自分たちはどこから生まれてきたのかもわからず、臓器提供者として育てられる若者たちの短い一生。

つい先日ですよね、人間の臓器をもつ動物の出産を認めることになったのって。もうそこまできてますよね、このお話の世界が。というか、逆に動物で成功すれば、この世界はこないかもしれません。それがいいか悪いかは考えなければならないと思いますけど。というくらい現実に近いんですよね、SFのようでありながら。

映画は原作を上手くかいつまんで作られてて、重要な部分がきちんと入っているし、とてもよくできていると思いました。こういう文学作品は、ストーリーを追うだけでなく、その空気感を映像化できるかが非常に難しいと思う。ネトフリで配信された「火花」ともとても似た感じの、映像から空気の冷たさとか乾いた風とかが感じられる感じがしました。

胸が詰まるようなシーンはいくつもあったけれど、ルースを愛してないのに、それを言わないトミーとただ涙を流すキャシー、このシーンがとても印象的でした。

人はいつか必ず死ぬけれど、それまでに様々な体験をする。人を愛したり、憎んだり、妬んだり、孤独を恐れたり…。そういった体験って、ほとんどが若い頃に味わうもので、歳をとったときにそういうことを思い出して、幸せになったり、笑ったり、恥ずかしくなったり、後悔したりするものだけど、この映画の登場人物たちはその一生が短かすぎるために、あまりにも幼い間に様々な体験を詰め込まなくちゃならなくて、それを後悔したり思い出すことすら始めるのが早くなる。一生がこんなに短いとわかっていたら、どんな風に生きたらいいのだろう…。とにかくこのお話は様々な角度からいろんなことを考えさせられると思う。