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わたしを離さないでのneroのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
4.0
カズオ・イシグロの原作小説はずっと気になってはいたが未読だ。
クローンによる生体臓器移植という設定はSF的ではあっても、本作ではディストピアにおける生命倫理を描くことが眼目ではない。自身が臓器の育成・維持装置でしかないことを知ってなお”その時”が来ることを待つ日々。最大でも3度の”提供”の後には死が待つ。喜びでもなく悲しみでもなく、ただ”上がり=終了”へと向かって流れる時間。そこに生への思いはあるのか? カズオ・イシグロは純粋に”生”なるものを普遍的に描こうとしたと思える。そしてマーク・ロマネク監督も。何度か挿入される手術室のシーンが無感情・無機質に徹していて、生体のバックアップがシステムとして確立した社会を強く感じさせる。

感情も自由意志も持つ生命体として育成されながら、社会的な自己は与えられない彼ら。「ギャラリー」は彼らが人間であることを一体誰に対して表そうというのか? トミー.dの絵からは人間らしい情動は感じられない。彼が発する咆哮も、絶望すら獲得することがなかった哀しみの表出なのかもしれない。
ラスト、キャシー.hの横顔からはなんの感情も読み取ることはできなかった。 むしろそれまでに存在したであろうaからgのキャシー、そしてi以降のキャシーの”生“を否応なく思わざるをえない。3年の猶予の間に”使命”を果たしたのは誰だったのか?
全編、諦観を形にしたような静謐で冷たく美しい映像がひどく切なく感じられる。劇場で観たかった。

シャーロット・ランプリングって最近こういう役ばっかりになってるように思う。
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