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ウカマウのくりふのレビュー・感想・評価

ウカマウ(1966年製作の映画)
3.5
【復讐のケーナはいつ響く】

特集上映「ボリビア・ウカマウ集団制作 革命の映画/映画の革命」にて。

ウカマウ集団の長編第一作とのこと。今回短編含め7本みられましたが、私にとっても、ボリビア映画たぶん長編初体験でした。

インディオ農夫の妻サビナが、傲慢なメスティソの農作物仲介人ラモスに犯され殺される。目撃者はないが、夫マイタは犯人を知ることになる。しかし彼はひたすら沈黙を続ける…。

慣らされてきた欧米型映画文法から、少し離れたところが新鮮でした。

人物と背景…図と地が一体化したようなロケーションも面白い。マイタが湖の向こう側にある市に毎日、小さな白い帆のヨットで出かけるんですが、この画が素朴でも詩的で、ターナーの風景画のようです。

しかし同じ時、屋外で堂々と強姦殺人が行われる。インディオ差別の腐みがするりと入り込んで来ます。

面白いのは、マイタよりラモスの心情描写に多くを割いていること。インディオを搾取する側でも、小物であるラモスは生きるに不安だらけなんですね。これは、先住民ではないホルヘ・サンヒネス監督の視線に近い、ということもありそうです。

犯罪がバレるか否かの緊迫を含め、ラモスの振幅がドラマの面白さにつながっています。

ペルーやボリビアが発祥と言われる縦笛ケーナが効果的に使われています。マイタが持ち歩き、帰宅を告げる意味もあるのか、湖から家に歩く時も吹いています(…泣けますココ)。これを「その時の」ラモスも聞いてしまうから、彼にはトラウマとなってしまうんですね…。

稚拙に感じる点はどうしてもありますが、それより私はボリビア映画ならではの魅力を、より味わいたい。ラモスに比べ、マイタの長い沈黙の中身がよく伝わらずに正直ダレもしますけど。

可笑しいのは、インディオの観客にもマイタの描き方はおかしいと不評だったそうです。

私はもっと早く決着つけられるでしょうに…とイラつきましたが、先住民の共同体では、マイタのように独りで引き篭ること自体がありえないとのこと。

このことを監督が知っていたら、もっと締まった面白さが出たでしょうね。

<2014.5.7記>
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