風に立つライオン

ローマの休日の風に立つライオンのレビュー・感想・評価

ローマの休日(1953年製作の映画)
5.0
 何回観ても面白いと思わせる映画である。

 1953年制作、ウィリアム・ワイラー監督によるラブコメディー映画の傑作である。

 ラブ・ロマンスコメディ+冒険活劇+王子と乞食というジャンルはないが、そうした素材に生き生きとした息吹を吹き込み、ハラハラドキドキ、「次はどうなる」と引き込んでしまう魅力を持った作品に仕上げたのはウィリアム・ワイラー監督の手腕だろうと思う。
 そして何と言ってもアン王女役を演じた、初々しく瑞々しい気品あるオードリー・ヘップバーンの魅力無しには語れないだろうと思う。
 彼女の出自の中にベルギー貴族の血が流れているということだが、然もありなん、元々持って生まれたものなのである。

 冒頭のローマ到着後の謁見シークエンスでは、延々と続く謁見に退屈となって来たアン王女を捉えるのにカメラはスカートの中に入り込み足元を映し出す。
 片方の靴を脱いで足を遊ばせている内に脱いだ靴が転げ落ちスカートの外へ。
 側近が目を丸くして目で知らせ合う、気の利いた側近紳士がアン王女をダンスにお誘いし、靴をスカートの下に入れ履かせて事なきを得る。
 こうしたディテールの繊細な描写が人物を表現し物語を膨らませていく。

 かんしゃくを起こしたアン王女に注射を打つモノコーベン医師の後ろからその様子を見ていた将軍が失神したり、グレゴリー・ペックが眠気で虚なアン王女をタクシーに乗せるときの運転手の表情、サンタンジェロ艀のダンスパーティーで張り込みをする政府エージェントがリズムを取っているのを上席が睨むと元のいかつい顔に戻る場面など随所に散りばめられていて飽きさせない。

 ワイラー監督は「おしゃれ泥棒」でもオードリーを起用してラブ・コメディーを撮っているが、ストーリー自体何の変哲も無いものだが、こうした人物の繊細な演出を随所に入れてくるので物語にメリハリや膨らみが出て生き生きとしてくるのである。

 そして大冒険の後は商売のネタにしようとした男達がそれを止め、思い出にすり替えて贈り物にするラストシーンにホロッとさせられる。
 主役のグレゴリー・ペックなどは元来、狡猾な悪役などを演ってもその清潔さと品の良さからして画面上ではかえって違和感がでてきてしまうに違いない。

 ワイラー監督はそういうツボを抑えた演出で実に粋な幕の閉じ方にしたものだと思う。

 稀にみる傑作と呼んでいい作品である。