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綴方教室のzhenli13のレビュー・感想・評価

綴方教室(1938年製作の映画)
3.4
高峰秀子の著書『わたしの渡世日記』上巻があまりに面白く一気読みした。その中に『綴方教室』のことも出てくる。山本嘉次郎監督とのやりとりで好感を持ったこと、原作者の豊田正子との交流を雑誌記者に悪意ある記事にされやがて疎遠になってしまったこと、などが書かれている。
『綴方教室』助監督は黒澤明。『わたしの渡世日記』の別の章には、高峰秀子と黒澤明との恋についても書かれている。

高峰秀子は幼少から温かい家庭や子どもらしい生活や学校教育とは無縁で、5歳で子役として家計を担っていた「職業人」(技術を鍛錬する職人ではなく、ひたすら仕事して稼ぐ職業人)だったことを『わたしの渡世日記』で知り、『綴方教室』のころ14歳だったデコちゃんに「頑張って仕事してたんだなぁ」という頭悪い感想が浮かぶ。貧乏家族の長女豊田正子役でつんつるてんの着物からすらりと伸びた脚や小顔が洗練されていてちょっと貧乏長屋に合わないかなと最初思ったが、健気な少女の姿はさすがの職業人。母役の清川虹子にしばかれて泣き叫ぶシーンがあったけど、きっと実生活ではそんな感情出してる余裕も無かったのだろうな。
演出は自然な感じを出したかったのかもしれないがやや単調で平板な感じがした。

以下、映画の感想というよりも…というところ。
滝沢修演ずる学校の先生は綴方の実践に熱心で、デコちゃん演ずる正子の綴方にディスカッション的に生徒同士で意見を言わせたところを拾って「知らない人が読んでも状況がわかるように(客観的に)」という助言をしたのは、作文の技術を教えるという意味でとてもよいやり方だと思った。しかし「見たままを正直に書く」という言葉でまとめてしまったのが、教員にありがちな抽象的精神論的なまとめという感じがした。当時は生活綴方教育が流行っていたようだが、作文の技術的指導ってじつは現在の学校教育の方がなされてないのかもしれない。
ここでは学校の先生の推挙により正子の綴方が「赤い鳥」に掲載され、特定される個人(父親の雇い主)を揶揄する文章があったことに当該家族が憤慨するという、メディア露出におけるリスク管理にもつながるエピソードがあり興味深い。また、学校の先生は真面目な人できちんと正子の家や雇い主の家を訪問してお詫びに行く。先生の訪問に家族は平身低頭する。「先生様」の時代であったのだなぁ。
にしても徳川夢声演ずる父のブリキ屋が立ち行かず派遣労働者となり、でも3,4日に一度くらいしか仕事がなくて一家食い詰めるという状況、いまの日本も同じでは…
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