イチロヲ

夜の女たちのイチロヲのレビュー・感想・評価

夜の女たち(1948年製作の映画)
3.5
夫の戦死により困窮に喘いでいる女性(田中絹代)が、性産業の世界へと落とされてしまう。戦後の大阪を舞台にして、性格が異なる姉妹の再出発を描いている、ヒューマン・ドラマ。久板栄二郎・著「女性祭」を原作に取っている。

男の道具に成り下がることに反目している姉と女の武器を自覚している妹(高杉早苗)を対比させながら、両者の心の変遷を描いている物語。「不幸な境遇における、子育てを選択する心理」を提起しながら、「この世は神も仏もない」へと落としていく。

音声トラックの劣化により台詞のヒアリングが困難になっているが、まるで当時の空気を封じ込めているような、同時代感覚に浸ることが可能。風化させてはならない実録系ドラマの典型であり、ご多分に漏れず資料的価値が凝縮されている。

「不幸な境遇に耐え忍んでいる女性が、独自の幸福論を模索していく」という、溝口健二監督の一貫した作家性が打ち出されている作品。サディズムの妙を感じ取りながら鑑賞するスタイルが面白い。
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