真鍋新一

絶唱の真鍋新一のレビュー・感想・評価

絶唱(1958年製作の映画)
4.0
アキラとルリ子は渡り鳥シリーズが始まる前に、すでにこれだけの文芸ロマン大作を演じ切るだけの実力を持っていたという。

渡り鳥シリーズも暴れん坊シリーズも流れ者シリーズも大好きだが、いくらなんでも映画の格が違いすぎる。当たるからといって似たような話のアクション映画をひたすら量産し続けることになってしまったスター2人のキャリアが悲劇である。

アキラとルリ子のカップルの麗しさ。これほどまでに応援してやりたくなる2人はいない。それだけに2人を引き裂く戦争が本当に許せない。わざわざいつの時代の物語かを説明せず、遠くで壮行会の声が聞こえて、あぁいまは戦中なんだ……という。純粋な志を持つ人ほど生きづらい時代。当たり前のように友人は帰ってこず、アキラもまた終戦から1年経っても生死不明。勝敗が決すればすぐに終われるわけじゃないのが戦争だということを見ているこちらもすっかり忘れている。恐ろしいことだ。

「醤油を買いに行ったが売ってくれない」という、地味にものすごく陰湿な村八分が出てくる映画としても記憶しておきたい。戦争で若者が減った結果、郵便局員がジジイばかりで電報が遅れるというのも生々しい。
真鍋新一

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