スギノイチ

安藤昇のわが逃亡とSEXの記録のスギノイチのレビュー・感想・評価

4.0
『襲撃編』と同じく「横井英樹襲撃事件」とその逃亡劇を描いているが、こちらは逃亡劇のみがメイン。
同じ事件を描いていながら、良くも悪くも無神経で淡々とした佐藤演出に比べ、田中登の演出は耽美的で情念が渦巻いている。

この映画の安藤昇はアンチヒーローとして完全なカリスマを帯びている。
タイトルが示す通り、安藤昇が逃亡先で愛人達を抱きまくるのだが、女達は全員「安藤のためなら命も惜しくない」と言いかねないほど崇拝、陶酔に狂い、それぞれが異なる愛し方で安藤昇を愛し抜く。
逃亡すればするほど、弱るどころかかえってカリスマを強めていく。次の台詞が象徴的だ。
「追われてるっつうのは何かから逃げる事だ。
俺のは何かから逃げてるんじゃねえ。何かに向かって逃げてるんだ!」
ともすると単なる詭弁に聞こえてしまう発言だが、その直後に妻に屁理屈だと一蹴されるシーンを入れる辺り、相対的なバランス感覚もあるのだろう。
小池朝雄と共に戦時への恨み節を爆発させるシーンは『懲役十八年』の変奏でもあり、安藤昇の反逆精神の原動力が窺い知れる。

本作を観るまで、役者としての安藤昇に特別興味はなかったが、この映画ですっかり惹かれてしまった。
口答えする石橋蓮司をはたくシーンがあるが、滅茶苦茶リアル。東映実録ならもっと過剰にボコボコにするだろう。
極めつけは身柄拘束シーンだ。
逃亡先でマダムを強姦中、生理である事に気づき「なんだお前、日の丸じゃねえか」と確認後、豪快に強姦続行。
警官隊に捕えられ移送されるも、「てめえら最後までやらせねえからだ」と車内でシゴいてフロントガラスに射精。
挙句の果てに「天皇陛下になったみてえな気持ちだよ」と嘯き、泉谷しげるの煩いギターが鳴り響く。
たった数分で色んなものに喧嘩売り過ぎである。
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