マヒロ

Kids Return キッズ・リターンのマヒロのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
3.5
高校生のマサル(金子賢)とシンジ(安藤政信)は、学校に来てもまともに授業に出ずにカツアゲや教師への挑発行為を繰り返す問題児で周囲を困らせていた。やがて、シンジはマサルの付き合いで始めたボクシングで才能を開花させ、マサルは町で出会ったヤクザに気に入られ極道に足を踏み入れ、二人は別の道を行くことになる……というお話。

二人の青年の人生の一部分を切り取り失敗も含めて肯定するような優しさと、誰もが成功を掴めるわけではないというドライな厳しさを兼ね備えた作品で、安易に死を扱わない一方で生きていくことの辛さもはっきり描写しており、たけしが例のバイク事故で死にかけた後に撮ったというところが色濃く反映されているように思えた。

主人公は安藤政信演じるシンジだが、マサルといる時以外は話しかけられても頷いたり相槌を打つだけで、劇中喋ってることの方が少ないくらい無口なのが印象的。そもそも、積極的に悪さをするタイプでもなさそうなのに何故マサルとつるんでいるのかも分からないし、家に帰るシーンもなくどういう家庭環境にあるのかも不明で、最後まで人物像が見えてこないが、この極端な薄っぺらさが目的を見失った若者を戯画化したキャラクターなのかなと思った。明確に道を踏み外していくマサルと違い、才能を見出されているのにも関わらずそれを掴み取ろうとせず、ダメな自分を肯定してくれる悪い先輩に着いていってしまうという主体性の無さが彼の良くないところなのかも。
マサルとシンジの物語以外にも、彼らの同級生である漫才師を目指す二人組とカフェの店員さんに恋心を抱く男のエピソードが挿入されるが、周りに馬鹿にされながらも本場大阪で修行を積み漫才を形にしていく二人組と対照的に、カフェの青年は適当に就いた仕事で苦労し同僚に流されるまま辞めてしまうなど、シンジと同じ主体性の無さからドツボにはまっていく様が描かれている。恐らくだけど、周りに何を言われようと自分のやりたいことを見つけてそれを突き詰めるべしというメッセージが込められているのかなと感じた。

たけし映画特有の説明臭さのない淡白な編集と、おかしいくらい青みがかかったいわゆる「キタノブルー」な画面作りなど、明確に作家性が表に出た作風は映画のメッセージでもある「やりたい事を突き詰める」ということを体現していて、主旨が一貫しているところが格好いい。観客を突き放したような演出は観客側を信頼している証とも言えて、もっとこういう映画が観たいなと思えるような作品だった。


(2022.171)
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