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イントレランスの砂場のレビュー・感想・評価

イントレランス(1916年製作の映画)
4.9
ニーチェの『道徳の系譜』という本がある、道徳概念の起源をユダヤ/キリスト教から紐解き、道徳が弱者主導の奴隷の道徳に成り下がっていることをバッサリと書ききっている。
『イントレランス』はグリフィスによる『不寛容の系譜』ともいうべき作品である。ニーチェが恨み(ルサンチマン)や負債などの諸概念から丁寧に道徳の起源を解くがグリフィスによれば不寛容こそが歴史上多くの悲劇を起こしてきたものに他ならない。
このグリフィスの不寛容Intoleranceという概念はとてもわかりにくく、映画でも説明に成功しているとは思えない。なぜ不寛容がバビロンを陥落させ、イエスを磔刑に処し、サンバルテルミの悲劇を生み、無実の青年を絞首刑にするのか???
このわかりにくさは我々が悲劇の原因を貧困など経済的なものや、イデオロギー対立などに求めることに慣れきっており、不寛容Intoleranceがあらゆる悲劇の根源であると言われてもピンとこないからである。しかしニーチェにとって道徳概念が彼独特のものであったように、グリフィスにとって不寛容Intolerance概念は彼独特のものなのだろう。
グリフィスは思想書のようなものを書けばよかったのかもしれないが映画狂の彼は壮大な映画を撮ることで彼なりの「不寛容Intolerance論」を書き上げたのだ。
ただ本作はオリジナルの8時間版から大幅にカットされたこともあるかもしれないが、4つのエピソードがごろりと単に投げ出されており、統一的な「不寛容Intolerance論」に昇華されているとは言い切れない。本作から「不寛容Intolerance論」を見いだすのは後世に生きる我々の課題であろう。というのも不寛容がもたらす様々な問題は現代でも見いだせるからである。

ニーチェは猛毒を持った思想家でありヤバイ連中に担がれたりもした。グリフィスも猛毒を持っている。『國民の創生』は映画技法はともかく物語は現代の我々には到底受け入れがたい。しかしその猛毒を深く知らなければ解毒剤も発明できまい。
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