MasaichiYaguchi

一枚のハガキのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

一枚のハガキ(2010年製作の映画)
3.7
99歳の新藤兼人監督の最後の作品は実体験を基に作られている。
この作品は、これから死地の戦場に出兵する戦友に託された妻宛のハガキを届ける一兵士の物語である。
上官に引かれるクジによって生死を分けられる理不尽、家庭の事情など斟酌せずに徴兵する赤紙、出兵して白木の箱の「英霊」として帰郷、それらを農家の前で繰り広げる「儀式」のように描き、「儀式」の終了後の有り様、働き手や大黒柱を失って崩壊していく家族を我々に突き付ける演出は静かな怒りに満ちている。
自主映画を作ったことがある人や、映画製作に携わる人なら、脚本を書く、監督をすることが並大抵なことではないことは分かると思う。
本作は、監督をアシストする人がいたとしても100歳に届かんとする人が作る映画ではない程に熱量を秘めている。
映画に込められた怒りと慟哭、死んでいった人々の分も含めて生き抜こうというバイタリティに、観ている者は大きく心を揺さぶられる。
第二次世界大戦前後を舞台にしていたり、出演者が芸達者なベテラン俳優ばかりで若手人気俳優が出ていないということも有り、若者向けの作品ではないかもしれないが、日本にもこういう時代があったという事実、死んでいった人々の思いを背負って逞しく生き抜いた人々の姿を、黄金色に輝く麦畑のラストシーンと共に感じて欲しいと思います。