ハレルヤ

この自由な世界でのハレルヤのレビュー・感想・評価

この自由な世界で(2007年製作の映画)
3.8
人材派遣会社をクビにされたシングルマザーの主人公アンジー。一念発起し自らが職業紹介所を立ち上げ、会社を軌道に乗せようと努力する。しかし不法移民を働かせた方が儲かると知ったアンジーは、違法の道へと足を踏み外していく。イギリスが抱える労働や移民の問題に切り込んだドラマ映画。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」「家族を想うとき」と、この手のテーマを取り扱えば右に出る人はいないんじゃないかと思うほどの完成度を見せてくれるケン・ローチ監督。

彼が2007年に監督した本作も当時のイギリスの社会問題を主題としたもの。上記の2作を鑑賞済みの方なら、ある程度察する事が出来ると思いますが、本作も当然現実的な場面ばかりです。

貧乏からの脱却の為。他人に使われるのはもう御免だと起業するも、現実はそう簡単に上手くいかない。利益を出す為に越えてはいけない一線を越えてしまうアンジー。その結果更なる泥沼へと沈み込んでしまう様子がリアル。

普通の映画なら一筋の希望が差し込むような描写がありますが、この監督の作品ならそんなのは皆無。本作もその流れは踏襲されています。

弱者を踏み台にしないと生き残れない立場なだけに、どんどん心を悪に売り渡していくアンジーの姿には何とも言えない気持ちになりました。いつも寂しい思いをさせている息子の為と言えど、労働者にも同じく家族がいる。無情な現実が時間を追うごとに突き付けられてきます。

その問題はアンジーのビジネスパートナーでもあるローズから見ても異常な事態と分かりますし、アンジーの両親の目線が一番観客側からだと分かりやすいかもしれません。そんなアンジーの視点だけでなく客観的な視点も合わせているのが監督の巧いところ。

家庭も仕事も何もかも歯車が狂い、心身ともに余裕が無くなっていくアンジーを見ていると、イギリスの見えざる社会的な暗部が浮かび上がっているように思えました。

やっぱりケン・ローチ監督の作品は良い意味で非常に現実的。日本でも決して他人事とは思えない一作です。
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