菩薩

泥の河の菩薩のレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.8
卓越したセンスと、熟練の技術すら感じさせる、小栗康平初監督作品。こういう奇跡のような作品が、この世には後何本あるのだろうか。

「もはや戦後ではない」の文字が紙面を踊り、太陽族が新たな価値観を提唱し始めた1956年。戦争で全てを失った国が、他国の戦争で再び力を手にし始めた年。日本はいつから、他を上から見下ろす存在になったろうだろうか。戦争で打ちのめされた男たちを救ったのは、あの時代に生きた女達の、まさに身体を張った努力である。「食うか食わぬか」の時代は、いつしか「喰うか喰われるか」の生存競争へと姿を変えた。生きる為に働いていたはずの人間が、いつしか働く為に生きるようになり、蟹の様に前に進めずそのレールからはじき出された者は、自らの背中に付けられた火を消すこともできず、ただ朽ち果てていくしか無い。日本は未だに、そんな戦後70年を生きているのだと思う。

自らでは推進力を持たぬ彼らが、曳航され画面から姿を消していく様は、いくら象徴的な姿と言えどもあまりに残酷で哀れに映った。
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