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泥の河のMovingMoviesのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.5
子供たちの夏の物語である。河岸のうどん屋の息子、信雄は舟に住んでいる少年きっちゃんと友だちになる。戦争から10年たった大阪が舞台だ。

信雄は何度か死に接近する。知り合いの男たちが、あっけなく死んでいくのを目撃してしまうのだ。戦争を生き延びて帰ってきたのに、俺たちはここでカスのように死ぬと父が遠い目をして言う。

信雄はまた、女たちも目にする。彼女らはひとりひとりがとても対照的だ。明るく優しい母。片時も休まず一所懸命に働く。飾り気がない。父の世話になった人だという病床の女性。その細くて弱い手。はっとするほど美しいきっちゃんのお母さん(加賀まりこ)。

子どもたちは何も語らない。この映画の大きな魅力だ。好意を静かに断わる銀子ちゃん。客たちに「帰ってくれ」と信雄の父が声を荒げたとき、下を向いて歯を食いしばるきっちゃん。舟が見えないと伝えても、畳の上でごろんと横を向くだけの信雄。

大好きなシーンがある。きっちゃんも誘っていいかと、信雄が友人に聞いて断られる。すると、きっちゃんが突然でんぐり返しをする。きっちゃんと信雄は「痛てっ」としか言わないけれど、顔を見合わせて笑うのだ。