ぴのした

泥の河のぴのしたのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
3.9
小栗康平監督作品。

舞台は戦争終結から10年が経った1950年代。うどん屋の息子ノブオ(9才)は家の前の川に停まる舟に暮らす同年代の姉弟キイチとギンコに出会い、仲を深めるのだが…。

人に勧められた映画なんだけど、いやあ白黒だし面白さが分かるかなあという気持ちで見たんだけど、やられた。すごく面白い。宮本輝の小説が原作になっているのもあって文学的なしみじみとした良さがあった。

キイチたちのお母さんは体を売って生活を立ててて、舟の上での移動生活だからもちろんキイチたちは学校にも通えていない。浮浪者は川に落ちてもまともに警察は取り合ってもくれない。仕事を頑張ってやっとトラックを買おうと意気込んだおじさんは呆気なく荷台の下敷きになって死んでしまう。

これがこの時代の人々の当たり前の姿で、ノブオの一家はうどん屋が軌道に乗ってまだ生活にゆとりがありそうな感じだが、それでもノブオの父や同世代の男たちは戦争から命からがら生き延びた人たちで、戦争の傷跡は癒えない。ノブオの父が言う「いっそ戦争で死んでいればよかったと思う人は多い。生き残っても俺たちはこんなスカみたいな生き方しかできないのか」という言葉が重い。

でもこのノブオのお父さん、すごくカッコいいなあと思う。ノブオを子供だと軽く見ずに、京都へ連れて行くときにもちゃんと1人の人間として説明して一緒に来てくれないかとお願いする姿だとか、キイチたち姉弟にも暖かくて、優しくて。キイチを貶した客を追い出すシーンとかすごくカッコいいよね。こんな風に年を取りたい。

ノブオの涙は、きっとキイチたち一家が抱えてきたいろんな辛さ(体を売らなきゃ生きていけない辛さや、カニを焼くことでもしないと気を紛らわせない辛さ)をその時はじめて直に感じ取って、しかもこの時代というのはそういうのが世間に溢れてて、それをどうしようもできない時代だということを感じた末の涙なのだと思った。ノブオの父が常に感じているこの時代の非情を、ここで初めてノブオなりに理解しということにもなるのかも。

この時代の子供というのは、親の世代にとって希望だったのかもしれない。ノブオの父の言葉の節々に、子供達には戦争の辛い記憶や今のひどい暮らしの格差を乗り越えて、新しい世代を担っていってほしいという思いを感じた。