kaomatsu

パットン大戦車軍団のkaomatsuのレビュー・感想・評価

パットン大戦車軍団(1970年製作の映画)
4.0
現実の世界では、誇大妄想狂的な人物には絶対に関わりたくはないが、客観的に眺めるぶんには、とても面白い。偏執狂的ロマンチストを描いた傑作としては、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『アギーレ/神の怒り』『フィツカラルド』が有名だが、両作品で主役を演じた怪優クラウス・キンスキーを生んだドイツに対して、ハリウッドも負けてはいなかった。本作で戦争ロマンチシズムに取り憑かれた男、ジョージ・パットン将軍を演じた、ジョージ・C・スコットである。第二次世界大戦末期の北アフリカ戦線を皮切りに、常に戦争をしたくてウズウズしているパットン将軍の鬼指揮官ぶりを、その人となりに焦点を当て、功罪の両面から描いた本作は、戦争映画の中でもきわめて稀有な部類の作品と言えそうだ。

1943年の北アフリカ戦線。ロンメル将軍率いるドイツ軍と戦い、疲弊したアメリカの第2兵団を立て直すべく、パットン将軍が司令官として着任する。副官はブラッドリー少将。間もなく彼の兵団は、戦敵ロンメル軍団を粉砕、アフリカでの戦闘が終わり、パットンはシチリア島侵攻の司令官を任される。パレルモ侵攻に成功するものの、戦争で心神耗弱となった兵士を殴ったことから、パットンは第2兵団を解任され、イギリス軍に欧州戦線の任務を奪われてしまう。そして待機中、ノルマンディー上陸作戦が成功すると、ブラッドリーよりお呼びが掛かり、満を持してのパットンの活躍により、ドイツ軍を壊滅状態に追い込むことに成功するが…。

スクリーン全画面を覆う星条旗をバックに、パットン将軍が長々と講釈を垂れる最初のシークエンスで、すでに彼の偏屈な鬼指揮官ぶりが発揮されていて、この映画の方向性を見事に決定付けている。そして何と言っても、軍のトップたる人物ながらも、こういうウザいオヤジいるいる的な、リアリティ溢れるパットンの人物造形にはアッパレ。野戦病院で、重傷を負って横たわる兵士には涙を流してねぎらった直後、戦争のトラウマに怯える兵士をブン殴ったりと、その激しい性格の振れ幅が描かれている。さらに、ソ連への配慮のない発言からバッシングを喰らってしまい、その都度カール・マルデン扮するブラッドリー少将から釘を刺されつつも、ついつい一言多い発言を繰り返してしまうあたり、やっぱり人間は本質的には変わらず…としみじみ。極度の戦争史オタクでもあり、紀元前のポエニ戦争に想いを馳せ、「自分もその場所にいた」など大真面目につぶやくパットンの、偏執狂的戦争ロマンチストとしての一面が、超ウザウザかつ可笑しい。

かつて私はヴェルナー・ヘルツォーク作品が大好きで、アマゾンにオペラハウスをつくるため、巨大な船を山越えさせてしまうフィツカラルドの誇大妄想狂ぶりに仰天したが、そんな完全にイッちゃってる破綻者よりも、パットン将軍のように職業軍人として国家に尽くし、戦争規律を守りながらも偏執狂であるという、そんな狂気と正気のはざまに立つ人物のほうが、俄然リアルな人間臭さがあって、今の気分に合う。大げさな感傷よりも、戦場におけるパットンの日常を淡々と綴ったような作風は、共同脚本として名を連ねるフランシス・フォード・コッボラも一役買っているのだろうか。本作でアカデミー主演男優賞に輝くも拒否、パットン将軍の魂が憑依したかのようなジョージ・C・スコットは、もはや演技ではなく、映画の中の現実を見事に生きている。
kaomatsu

kaomatsu