垂直落下式サミング

ケーブル・ガイの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ケーブル・ガイ(1996年製作の映画)
4.5
『リアリティ・バイツ』でもそうだがベン・スティラーは生き生きとした人物の動的なアクションを撮ることが上手い。『LIFE!』のスケボーシーンはある種の厳かさすら感じるパワフルな演出だった。本作ではスリラーに力を入れており、細かいことろまで場面演出にこだわる姿勢がとても好きだ。
本作『ケーブルガイ』は「バカコメディのなかで現実を欺瞞なしに描く」というベン・スティラーの作家性が光る秀作である。
ジム・キャリー扮するケーブルガイがストーカーとなって主人公に執拗につきまとうサイコスリラー。映画やテレビばっかり観てきたイタいヤツがサイコ野郎として登場する。
このケーブルガイが主人公の家のドアを破ろうとする悪夢のシーンがおぞましくて、ここはジム・キャリーお得意の過剰にディフォルメされたコメディ演技が炸裂する本来なら笑えるはずの場面なのに、カラコンで黒目を大きく見せているため彼の瞳の奥に心を読み取れない。ケーブルガイの対話不能な異常性が際立っている。
映画やTVバライティの所謂サブカル知識ばっかり溜め込んで、その実態は空虚で空っぽな男。彼はついに何も手にできず、何者にもなれなかった。
結局のところ映画なんざ何本観たって人生を豊かになんてしてくれないし、そんなことを本気で信じてる奴なんてバカだしキモくてイタイと言い切ってしまう。自身のファンすら蔑ろにしかねない皮肉を作品に込めるひねくれたところが好きだ。