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一番美しくのいとJのレビュー・感想・評価

一番美しく(1944年製作の映画)
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・黒澤明はしたたかだ。国のために身を挺して働くことが美徳である、そういう価値観を描きつつも、それが反転して反戦を訴えているようにも見える。特にラストシーンなんかそうだ。「渡辺さん」は母が亡くなった知らせを受けても帰郷しようとせず、働くことを選ぶ。それを見た寮母たちは、賢く良い子に育ったと言う。その様子は、今からみれば、ほとんど狂気的である。

・女子学生を演じた人々は、この映画の撮影のため、実際に工場の寮に入って生活したという。この映画のために、彼女たちは生活を投げ打った。「この映画のために」は、そのまま「この国のために」につながる。滅私奉公の内容に、滅私奉公の演出。この映画を観ると、黒澤明を手放しで称賛することが難しくなる(もちろん映像のキレキレ感は、今観ても、全く退屈しないどころか、素晴らしいと言えるものだが)。

・彼女たちはなぜ、国のために尽くしたい、役に立ちたいと思うのか。この背後にはまず、戦地に赴く男子への「うしろめたさ」がある。「彼らが頑張っているのだから、私たちも恥じないよう頑張らなければ!」という思い。そして、戦争に巻き込まれていくなかで、むしろ戦争を通して自分の「生きる意味」を獲得していく。社会参加によるアイデンティティの確立。国家、国民、戦争という大きなものが、人々を飲みこんでいた時代。いや、今の日本の政治や企業をみていると、当時とそんなに変わらない変わらないかもしれないな、と思う。
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