ウシュアイア

神々と男たちのウシュアイアのレビュー・感想・評価

神々と男たち(2010年製作の映画)
4.0
[あらすじ]
1990年年代、フランスの植民地から独立を果たしたものの、内戦の火種がアルジェリアの人里離れた山奥の村の修道院に、フランスよりやってきた修道士たちが暮らしていた。修道士たちは厳格に信仰生活を送りながら、村人とともに農作業を行ったり、医師でもある修道士の一人はイスラム教徒の村人たちに対しても分け隔てなく診察を行い、キリスト教徒の修道士たちとイスラム教徒たちが共存して生活をしていた。

そんな彼らが暮らす村の近くで、イスラム過激派によりクロアチア人が虐殺され、修道士たちはもとより、村人たちもまたイスラム過激派の脅威に曝されることになる。そんな中、修道士たちは信仰を貫き、アルジェリアの地にとどまり続けるか否かで深く葛藤することとなる。


この映画は、1996年実際にアルジェリアで起きた、武装イスラム勢力によるフランス人修道士拉致・虐殺事件を描いた作品である。
(1996年というと、冷戦後のつい最近じゃないか!)

以前から言われていたことかもしれないが、世界は9.11以降特に、イスラム教という宗教はテロリストの宗教とみなす傾向がある。イスラム教徒と敵対関係にあるキリスト教徒の考えが横行している部分もあればその対立軸の外側にいる宗教をもつ我々のような人たちにしてみれば、イスラム教をよく理解していないこともある。

オスマン帝国がイベリア半島を支配した時も、イスラム教国とキリスト教国が対立する中、イベリア半島ではイスラム教を強制するのではなく、キリスト教徒を異教徒として保護していたように、イスラム教の大多数は他の宗教に対して寛容であるという。現代のマレーシアやインドネシアなど東南アジアを見てもわかる。

この映画の冒頭では、キリスト教徒とイスラム教徒が共存する村の様子が描かれる。しかし、そうした穏やかな日々がテロリストによって脅かされる。

恋愛を説いたキリスト教徒の女性教師が殺されたという話から、過激派の狙いはキリスト教徒?と一瞬思うのだが、スカーフをつけていなかったムスリムのアルジェリア人女性が殺された、ということからも、テロリズムは身内にも向けられているのだ。

そんなことから、何気なくイスラム過激派ターゲットはキリスト教というわけではない、と触れており、この辺は見逃してはいけない部分だと思う。

修道士たちはというと、ついには、武装勢力が修道院にやってきて、医者でもあるリュック修道士が連れ去られそうになる。修道院のリーダー・クリスチャン修道士は、イスラム教とキリスト教徒は隣人である、とテロリストに説き、追い返すことに成功する。このことを経て、修道士たちは、キリスト教の隣人愛を貫けば大丈夫と、崇高な信仰を掲げ、結束する。

この時に逃げ出していれば修道士は助かったかもしれないのだが、この崇高な信仰が悲劇を生むことになってしまう。

診療所としての役割もあった修道院の存在は村にとってなくてはならない存在なので、結局、信仰の問題はもう関係なくなっている。困っている人を見捨てるのか?という問題になっているわけだ。

そう、ここまでくれば、難しい宗教対立やキリスト教の教義云々ではなく、人の生き方についての普遍的なテーマが見えてくるというものだ。予断を許さない原発の作業員の方々とこの修道士たち、どこか通じるものがないだろうか?

修道士たちの表情での演技を丁寧に映しているので、ちょっと冗長で退屈かも。内容がちょっと難しい上に重いので、好き嫌いは分かれると思うが、観れば心に響くものあり。

(2011年4月1日@TOHOシネマズシャンテ)
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