ふき

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャーのふきのレビュー・感想・評価

3.5
超人血清で強くなった一兵士が第二次大戦のヨーロッパ戦線で戦うヒーローアクション作品にして、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の五作目。

「アメコミヒーローが主役の第二次大戦もの」と聞くとアレだが、キャプテン・アメリカというキャラクターは実際に一九四〇年代に生まれたナチスと戦う戦意高揚キャラクターなので、アプローチとしては直球だ。さらに本作では、その時代錯誤なキャラクターを、映画世界の中で戦時国債を売るための道化として扱うことで「こんなヤツ笑っちゃうよね」と相対化して、戦争の是非などのセンシティブな問題には踏み込まない距離感を保っている。

そんな星条旗を背負ったヒーローになるスティーブ・ロジャースは、二〇一七年一月までのMCUで唯一、その必要がないにも関わらず自ら戦うになることを選んだ人物だ。それは「戦争に参加したいから」でも「ナチスを殺したいから」でもない。アイルランド移民の二世である彼は、アメリカン・スピリット「自由・平等・博愛」に忠誠を誓って育った。ゆえにそれを脅かす存在は、悪党だろうと味方だろうと戦うし、その元に生きる人たちは命に替えてでも護るのだ。そんな人格が超人血清を打たれたことでさらに強化され、「高潔な精神」を持つとまで言われるキャプテン・アメリカとなった彼は、もはや普通の人間としては生きられないし、ヒーローとしても時代に翻弄されることになる。

その出発点となる本作では、挿入歌の『The Star Spangled Man』が流れるシークエンスがまず見所だ。第二次世界大戦を戦うアメリカに従って、スティーブは原作コミックのようなコスチュームを着て、戦時国債を国民に買わせる戦意高揚キャラクターを演じる。盾に書かれたカンペを辿々しく読む段階から堂々たる演説に成長し、それに従って舞台も大きく演出も派手になり、舞台に映画にコミックにと大衆に人気になっていく展開に満更でもないスティーブだが、道化っぷりは際立っていく。
そこが強調されるからこそ、スーパーパワーを持ちながらも軍隊では軽んじられていたスティーブが、キャプテン・アメリカとして真の力を発揮する中盤以降が盛り上がる。
クリス・エヴァンス氏が演じるスティーブ・ロジャースは、確かに現行コミックのスーパーマン然とした顔立ちが大きく異なる。だが自らの意思でヒーローとなった「ただのブルックリンのガキ」が悲しい自己実現を果たし、ヒーローとして真に人々の希望の象徴になって受け継がれていく展開から考えれば、むしろ線の細さと顎の強さを同時に兼ね備えたクリス氏はドンピシャと言えるだろう。

ただ本作に関しては、正直「乗れないなー」と思う部分も多い。
お話は良くも悪くもスティーブ・ロジャースをMCUに合流させるためのもので、それ以外のキャラはそれほど掘り下げられない。中でも「ハウリング・コマンド」に選ばれるメンバーの四人は、現状では「誰が誰やら」だ。他の兵士より彼らがどう優秀なのか、それをキャップがどう知ったのかが描かれず、パブで酒をおごるところで「いやこの人たちのこと知らないし」と感じてしまう。
さらにハウリング・コマンドとチームアップしてキャップが活躍するシーンは前述の通りダイジェストで済まされてしまうので、彼らのことを好きになるチャンスがまったくないのだ。しかも『マイティ・ソー』で活躍しなかったシフ&ウォーリア・スリーのように、続編で活躍する機会もない。時間を超えでもしない限り不可能だ(ん? じゃあチャンスはあるのか?)。

ハウリング・コマンドの描写が不足すると、別の描写不足も浮上する。それはキャップの重要な側面である「作戦を立案して人を率いる」という資質だ。コミックを含むマーベルユニバースにおいて、キャップはそのリーダーシップでチームをまとめていくのだが、本作はそこを設定的には描いていても、お話的には描いていない。ここは続く『アベンジャーズ』でも唐突にリーダーに収まるので、MCU全体で弱いところだろう。

また上記とリンクするが、本作は時間配分のバランスがおかしい。いわゆる「三幕構成」で考えると、第二幕の後半がたった九分しかないのだ。しかもここは未公開シーンもないので、最初から劇場公開版以上の尺を撮影する気はなかったらしい。前作『マイティ・ソー』もそうだが、MCUのフェイズ1は二〇一二年の『アベンジャーズ』に合流するために割り切った作りを余儀なくされており、正直作品としての完成度は高くない。特に本作は、持っているお話のカロリー的に二作品は作れたはずだ。実に勿体ない。
(その辺りはゲームの『Captain America:Super Soldier』やコミックの『Captain America & Thor: Avengers!』など別メディアで補完か。日本語ローカライズされてないし、ゲームは完成度がアレだけど……)

文句が多めになってしまったが、クリス・エヴァンス氏演じるスティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカははまり役と言っていい完成度だし、彼の生き様は「アメリカにおけるヒーローの在り方」を考える重要な指針でもある。確かに「最高の人間」という水準である以上、ヒーローコミック映画としての目を見張るような映像体験やアクションはないし、戦争映画としてのハードさにも欠けるし、ヨーロッパ戦線を立ち回る絵面もCG然としているが、それでもMCUを眺める上でマストの一作なのは間違いない。

そういやハワード・スタークって、テッセラクトの原理の応用でアークリアクターを作ったのかな? 『アイアンマン2』のハワードの手帳にテッセラクトの模式図があったし?

(2015/11/22にマークしたが、見返した上で2017/01/30にアップデート)