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ファントマの逆襲のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ファントマの逆襲(1913年製作の映画)
3.0
[悪は日常生活の目と鼻の先にいる!、ファントマと時代の肖像③] 60点

本作品はフイヤード版「ファントマ」映画群の第三篇であり、小説第三巻『殺人する死体』を原作としている。ちなみに、五作ある映画では最長となっている。

第二作のクリフハンガーの回収。ベルタム邸爆破事件で辛うじて助かったファンドールはジューヴの死亡記事に嘆く。時を同じくして浮浪者クラナジュールが密売組織の新入りとして働き始める。ある日、陶芸家ドロンがファントマに襲われて目を覚ますと、そこにはパトロンの死体があり、彼は逮捕される。そして看守に殺されたドロンはファントマによって運び出され、手を切断される。その後警察は次々と起こる事件を指紋採取によって解決しようとするが、ファントマがドロンの手から作った"指紋手袋"によって操作は撹乱される。やがてクラナジュールとなっていたジューヴとファンドールは再会し、"指紋手袋"のトリックを見破るが、再び逮捕に失敗する。

実は小説『ファントマ』シリーズを連載する前にスヴェストルとアランが連名で書いた新聞連載小説『指紋』が原作の土台となっている。そのため、第一巻『ファントマ』と同様推敲する時間があったせいか比較的"まとも"な作品に仕上がっているらしいが、ジューヴの生死のクリフハンガーのお陰でファントマ像が見え辛くなったのも確か。
勿論"指紋手袋"など科学的にはあり得ないと思うのだが、そういうエセ科学的な側面も『ファントマ』シリーズの魅力と言えるだろう。

この時代まで犯罪者とは労働者階級から出てくるものという認識があったが、ファントマは上流社会に溶け込み、しかもカーテンの後ろに潜んでいるという悪の普遍性を体現する存在に見えてくる。当初はどんな身分にも化けていたファントマも次第に上流階級の人間にだけなっているという変遷も見ていて面白い。
また、カーテンを開ければそこにはファントマがいるという悪の普遍性というか、ベル・エポックの実際のパリでファントマが悪事を働くリアルさというのが本作品の魅力の一つであろう。

スタラーチェは1(文字)を10(絵)にしたのに対し、フイヤードは10(絵)を100(動画)にしたという点で評価できる。フイヤードが脚本家畑からゴーモン、ギィに引き抜かれた→ギィの結婚引退に伴って看板監督に就任した話は「レ・ヴァンピール/吸血ギャング集団」で、その後芸術映画を作るも評価されず連続映画を作り始めた話は「ファントマ」で触れた通り。スヴェストルとアランがゴーモンに吹っ掛ける形で脚本を手にしたフイヤードは脚本のある程度の改変に彼らの許可を得ていた。原作がまだ完結していない時に映画化されたためフイヤード版「ファントマ」は原作小説『ファントマ』の人気を爆発的なものにするきっかけになり、スヴェストルもアランもフイヤードに感謝していた。

最早、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのようになってきている気がするが、乱歩も怪人二十面相に本作品の影響を相当受けているであろうことが窺える。
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