茶一郎

狼男アメリカンの茶一郎のレビュー・感想・評価

狼男アメリカン(1981年製作の映画)
4.1
 コイツは最高にクールなホラー・コメディ。メイクアップの天才リック・ベイカー氏の特殊造形による腰を抜かすほどに素晴らしい狼男変異シーンが一人歩きして語られているこの『狼男アメリカン』ですが、その特殊造形以外も本当にグレート。
 辺境の地で狼男に襲われた青年が、狼男になるまでの恐怖と、死してなおつきまとう友人の亡霊の恐ろしさ、その恐怖の増大と同時に「男」として成長してしまう若者のジレンマ、我々が『狼男』に求める全てをジョン・ランディス十八番のコメディタッチで描いていきます。
 
 面白い、怖い、面白い、怖い、面白い……が交互にくる何とも奇妙な作品ですが、最も怖いのは冒頭、イギリスの田舎において主人公たち、他所者の「アメリカン」に向けられる田舎の大人たちの冷たい視線。すぐに「ユダヤ系」と言って無自覚な差別を振りかざす看護士さん。この疎外感は、ジョン・ランディス自身がユダヤ系である事、また監督の傑作『アニマル・ハウス』に通ずるものだと思います。
 
 奥手な主人公が狼男のなった途端、自身の内なる暴力性と性的衝動に向き合い、またパートナー女性も「狼男」としての主人公の男性性に惹かれてしまう。何とも切なく、彼の暴力性をデヴィッド・リンチさながらの悪夢的な映像で見せるシークエンスも格別です。
 ついさっきまで「裸になっちゃった」なんとコメディシーンがあったのも忘れるほどに、終盤はバッタバッタと人が亡くなっていく残酷描写のオンパレード、そして何よりも心を掴まれる切ないラストに♪Blue Moonが染み入ります。
茶一郎

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