しゅん

鏡のしゅんのレビュー・感想・評価

(1974年製作の映画)
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女に別れを告げ、青緑の草原の中を医者が進んでいくときに一陣の風が吹く。その瞬間に到来するざわめき、とまどい、後悔、優しさ。本作は一瞬の内に胸に広がった想いを永遠へと引き延ばしたような、そんな途方もない感覚を観る者に与える。
スペイン戦争、ヒトラーの死、原爆、文化大革命とニュース映像は過去から未来へ進むのに対し、ロシア文学からの引用はチェーホフ、ドストエフスキー、プーシキンと過去に向かっていく。モノクロとカラーの間を行き来する、二つの時間方向性の混在する作品だが、同時に『ヨハネ受難曲』『スタバート・マーテル』が成り響くキリスト教色の強い映画でもあって、最後の審判へと一直線へ向かう時間感覚が特徴の宗教を、双方向的な時間性の中で描いているのはかなり興味深い。『アンドレイ・ルブリョフ』にも最後の審判のイコン画製作を拒否するシーンがあったけど、タルコフスキーは自らの宗教性を映画として表現することに意識的な作家であり、その肝は永遠や回帰の観念と結びついた時間論にあったのではないか。長回しやスローモーションの多用にも、時間への強い拘りを感じ取れる。

疎開先で尋ねた家の奥さんのイヤリングとかこぼれたミルクがフェルメールの絵を連想させたんだけど、関連はあるのかな。まだまだ未整理な部分も多いので、そのうちまた観たいです。
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