垂直落下式サミング

アリゲーターの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アリゲーター(1980年製作の映画)
5.0
トイレに捨てられたアリゲーターが、科学研究所から漏れ出した成長ホルモン剤を体に取り込んだために巨大怪獣に成長し、町の人々を襲うというおはなし。
ヒッチコックの『めまい』はオープニングで女性の眼がアップになってはじまったが、本作はワニの眼のアップからはじまる。『ブレードランナー』も目のアップからはじまるし『時計仕掛けのオレンジ』は主役の目にフォーカスしてはじまる。目ではじまる映画は名作なのだ。そのなかでも、ワニは別格。瞳孔が縦長の形をした眼が瞬膜をぱちくりさせる様子が身悶えするほどかわいいのである。次の瞬間!流木に足をとられたオヤジに噛み付き、お得意のデスロールを披露してくれる。
こいつはミシシッピワニなので鼻先が平たくて目元がイケメン。下顎からのぞく八重歯が咀嚼力を獲得しているし、前足5本に後足4本の爪でコンクリートで舗装された地面を掴むのが力強い。そして何より首まわりから胴にかけての緩やかな流線形なんかは自然の生んだ芸術品だと思う。尻尾もラコステのロゴみたいにかなりのギザギザなんですよ。こんなもんリムジンなんかひとたまりもないんだぞ。
マンホールを破壊して地下水道から地上に出てくる場面や、いけすかない権力者たちのパーティを襲撃する場面などは、キメ顔でガッツポーズをしながら「ついにやって来たわに!」と叫びたくなる。やってやるわに!
この映画が作られた頃は、まだアメリカアリゲーターは絶滅危惧種に指定されていたハズ。よく今の数まで持ち直したと思う。個体数が減少している野生動物の繁殖に成功したという話しはよく耳にすることがあるけど、絶滅の危機を脱し保護指定種のリストから外れたというのはあまり聞かない。種の保存とはそれくらい難しいことらしい。ワニは保護に成功した数少ない事例だ。私は世界からワニが消えたら生きていけないので感謝しかない。
世の中で一番かわいい動物はワニなので、ワニがでかいのはかわいいし、でかいワニはかわいいので、これはもうでかくてかわいいと言わざるを得ない。赤ちゃんのワニも手乗りサイズなので、実質でかくなくても全部かわいいのである。
とってもかわいいのだけれど、本作では町中に人を襲う猛獣がうろついていたら、犠牲者を出す前にさっさと殺処分すべきだ。動物カワイイ尊いって感情と、人間を襲うなら害獣として駆除すべきだって意思は、現実世界においても必ずしも矛盾しないのである。