ジェイコブ

居酒屋兆治のジェイコブのレビュー・感想・評価

居酒屋兆治(1983年製作の映画)
3.6
高校時代、親友の岩下とともに名バッテリーとして名を馳せた英治。肩の怪我が原因でプロへの道を断念せざるを得なくなり、造船所へ務めることになる。しかし、人の良さが仇となり、会社をクビになってしまった英治は、焼き鳥屋を営む松川に弟子入りし、「居酒屋兆治」をオープンすることに。英治は妻茂子の手を借りながら、店は次第に繁盛させる。店の経営が軌道に乗っていたある日、英治はかつて想いを抱いていた同級生のさよが現れた事を知る……。
降旗康男監督作品。高倉健の不器用で寡黙なイメージを形作ったとも言われる作品の一つで、金儲けやギャンブルにも興味もなく、野心よりも人情や義理を重んじる英治と、大原麗子演じる薄幸のヒロインさよの魅力が溢れている。
また、乱暴者の先輩河原を「たんぽぽ」で知られる名監督伊丹十三、お調子者だが熱い心を持つ岩下を田中邦衛が演じている。名無しの脇役に武田鉄矢、師匠に東野英治郎が使われているのもまた面白い笑。
居酒屋兆治は、昭和の人情味があふれる古き良き居酒屋を体現したような存在であり、そこでは高給取りであろうと、その日暮らしだろうと平等に扱われる。企業の中では日常的な、出世争いやクビ切りによる格差社会に疲れた英治にとって、そこは理想の世界であったに違いない。英治はその優しさや義理堅さによって、損をすることの方が多い人間だ。だが、そんな彼の営む店だからこそ、居酒屋兆治は多くの人に愛され、憩いの場となった。多くの居酒屋が店を畳んでいる現代だからこそ、こんなお店の存在を渇望する気持ちが芽生えている。