しゅん

アギーレ/神の怒りのしゅんのレビュー・感想・評価

アギーレ/神の怒り(1972年製作の映画)
-
泥の河でもスクリーンから見れば穏やかな気持ちになるんだな。映画内の過酷さと映画館の心地よさの対比が凄かった。
霧深い山々をロングショットで映す冒頭と全てがレプリカかのように静止したカヌーを回転しながら撮るラスト。その間で少しずつ朽ちていく(ドイツ語を喋る)スペイン人とインディアンたち。結末は最初から分かっているようなもので、単調な話なら何を見出すかといえば、それは醜さのヴァリエーションだろう。それぞれの不自由さの中で生きる者たちの自殺行為は泥水にまみれて尊厳の影もない。キリスト教徒の傲慢、女たちの従順、貴族の肥満、インディアンの衰弱。唯一、自殺にたいして半ば意識的なアギーレのみが、醜さを対象化する形で無神論へと近づく。彼には人間よりナマケモノの方が親しい存在だっただろう。

「どうして悲惨な環境に身を置いてまで、映画を撮らねばならないのか」という問いが観終わった後に突き刺さってくる。ヘルツォークの欲望が怖い。
しゅん

しゅん