うべどうろ

愛情物語のうべどうろのレビュー・感想・評価

愛情物語(1956年製作の映画)
3.4
もうね、That’s ハリウッド!アメリカンドリームな物語を下地に持ちながら、ラブストーリーやファミリーものとしての馥郁たる香りも纏う往年の傑作だ。基本的には、あまりにも「よくある」ので、特筆することはない。
 
と、思っていたのだが、物語の終盤。とてつもないカットが2つある。1つは、主人公のエディが息子に病気と死期を告げるシーン。正確に並ぶブランコが、息子の手によって無造作に動き出す。そこを、母と子が怖がっていた“風”が吹き抜けることで、不穏な空気が助長する。そして、そこを通り過ぎた父が、自らの運命を“風”に導かれるように告げる。この、ブランコという小道具を、しかも5台ほども並んだブランコを巧みに利用した不安の演出は抜群ではないか。背景にはこの映画が「シネスコ」のサイズを実に見事に武器としていることもある。
 
もう一つはエンドカット。最期を前に、父と息子が対面に置かれた2台のピアノで連弾を試みる。この“対面に置かれた”という点も非常に重要で、その境界線が=生と死の境界なのだ。だからこそ、息子の姿を見守るチキータは決してその境界を超えることはなく、父もまた、母と息子の姿を「生」の側で見届けたのち、「死」のピアノへと足を運ぶ。そして、その演奏の最中、彼は痛みに襲われて音は止まり、カメラがズームバックをすると、そこに父の姿はすでにないという演出だ。このショットは紛れもない映画的なショットだし、とてつもなくメタファーに富んだ構図であって、そこから導かれる間断のない、まさしくピアノの階調ともいうべき時間の連続(生から死へと向かう)がこの作品を一気に傑作へと響かせている。鳥肌もののラストカットだった。
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