まりぃくりすてぃ

風が吹くままのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

風が吹くまま(1999年製作の映画)
2.9
「この前ね、またイラン映画観に行ったよ。『桜桃の味』っていうの。感動してすっごく泣いたよ」と学校で語った私に、クラスメートが「あー、うちの知り合いがそれ(桜桃の味)観に行って、つまんなすぎて泣いたって言ってた」と味も香りもないレスポンス。
しばらく経って、次作『風が吹くまま』を封切り直後に観に行った私だった。キアロスタミ作品にがっかりしたのは初。泣くほどつまんなかったわけじゃないが、クラスメートのあの不吉な前作時のレスポンスを映画館帰りに思い出した。
(ちなみに、そのクラスメートは家庭科の調理実習の時に私の作ったお菓子を勝手に勘違いして食べ尽くしたことがあった。その後、縁が切れた彼女を、私は今でも「人のお菓子を勝手に食べた人」「桜桃の味の悪口を私に伝えた人」という二大記憶とのセットでばかり思い出す。)

さて、前半に、男の人がヒゲ剃るシーンの長回し。見たくない種類のだった。(女を見せちゃいけなくても、こういうのはどれだけでもいいワケネ。。)
検閲のせいで女性というものをろくに撮れないこととかイラン人の日頃のイビツな男女関係とかを既に(子供なりに)知ってた私は、それまで無数のイラン映画が検閲をかいくぐろうと苦心した結果として精神性&芸術性高い大輪の花を咲かせてきたことを(子供なりに)好ましく受け取ってきたつもりだった。でも、初めてキアロスタミの、というか革命後のイラン映画の見苦しい限界を(子供なりに)本作に確認させられちゃった。
“尋ね人プロット” がさほど太らないまま、「男女関係」がモチーフとしてちりばめられた。それらが、私には味悪かった。
▼ネタバレぎみ 注意▼
① 出産翌日にケロッとして立ち働いてる主婦に、主人公男性が「子供何人? え、十人? 夫婦仲がいいんですね」みたいなことをサラッと言う。軽妙なやりとりを用意したつもりだったこの台本に、観客は誰一人笑わなかった。それまで他シーンでは笑いが湧いてたのに。(たまたまか観客は中高年女性が多かった。)
② 別の場面で、老夫婦の妻が夫に「男なんて、女に子を産ませるばかりじゃないか。男は身勝手だ」みたいなことを言い、夫が「男だって大変だ。夫婦生活をしくじったら面目を失う」みたいな反論。そこに関しては、悪い台本だと思ったわけじゃないが、聞いてて不快だった。
③ その老妻を、老夫がぶん殴って黙らせたらしい終盤。
────「結婚後の男女関係」という慣れないモチーフにキアロスタミ監督自身が火傷しちゃったみたいな不出来さだ、と私は(子供なりに)見抜いた。序盤のヒゲ剃りの気持ち悪さも忘れがたく、私は「やれやれ」というまずい満腹感(いや、腹部膨満感)で見終えた。
では、肝心の、人探しのプロットは? 肩すかしだった。それが悪いとは特に言わない。つまんなかっただけ。




再鑑賞で、ちょっと採点アップ。悪くはないが、良くもない。好みはあるだろうが、人にこれをキアロスタミ入門編としては薦めない。関係ないけど、イランのお菓子と砂糖は見た目も香りもとても面白い。